追憶

追憶 | ナノ






真っ赤な紅葉舞う季節が再び巡ってくる。
秋という名の通り、秋にはこの季節が一番よく似合う。寒色の季節を暖色で彩ってくれる、色とりどりの紅葉を体現したかのような彼には。


俺達は、出会って一年が経とうとしていた。


秋は副会長から会長になり、小坂は会計の座についた。
どこからどう見ても、彼らは仲の良い先輩後輩だった。
小坂はとても秋のことを慕っていたし、秋もまた小坂のことを可愛がっていた。






「もし俺がいなくなっても、春乃が俺の後を継いでくれるから大丈夫だな」


澄み渡る青空を見つめながら、秋が突然そう言った。


「え?無理だよ。秋みたいなリーダーシップ、俺にはないし。
俺は影に籠って皆のいる集団を怖がってたような奴だよ?勇気のない、弱虫で」


「春乃は弱虫なんかじゃない。それに何かがあっても、俺が春乃を守ってやるから」


秋の声は少し震えていた。
いつもの威厳と覇気がないように感じられたはずなのに、俺はそれに気が付かなかった。
後々考えると秋の様子がおかしいことをちゃんと感じ取っていれば、ああならなかったかもしれないのに。


「最近の春乃、かなり明るくなったし、頭はめっちゃいいし、俺なんかより生徒会に適任なんじゃん?ちょっと格好さえ着崩せば俺と交代できるよ。
ほら、こうやって首元を開けるだけで印象がだいぶ違うだろ」


秋はそう言うと俺のきっちりと閉められているワイシャツのボタンを2つ外した。
その行動に、俺はドキッとしてしまう。
鎖骨に秋の冷たい手が触れる。
その一瞬で、心臓がどうにかなってしまいそうになった。

でも、俺はそれを悟られないように自然体を装う。


「何いってるんだよ、秋。秋より適任なやつなんていないだろ。だいたい俺がそんなチャラチャラした格好…っ、ごめん、想像したら笑えてきた…」


「春乃が?俺みたいな格好を?
ハハッ、想像できねーなあ…。意外と似合ったりしてな。金髪とか、カラコンとか、ピアスじゃらじゃらとか。ついでに口調もめっちゃ間延びした感じにしてさ、いっそのこと別人みたいにしたら面白いな」


「やだよ、金髪にしたら痛むから。秋だってこの黒髪が好きだって言ったたじゃん。それに、俺がチャラ男なんてありえないだろ。ピアスだってこの一つで十分だ」


「そんなにこのピアス、大事なんだ?」


耳たぶに、秋の指先が当たる。
秋との距離が近くなる。無意識に顔が真っ赤になる。
トクントクンという心音が秋に伝わるほどに大きくなった。

身体を突き破って「好き」の思いが溢れてしまう。
駄目なのに、絶対にいけないのに。


神様は意地悪だ。
かけがえのない友人を、よりによって恋愛の対象にするなんて。
やっと一人じゃなくなって大切な存在ができたのに、それすらも許されないの?


「春乃、俺…」


秋が何かを言いかけたのが分かった。
でも俺は、その場から逃げることしか出来なかった。


同性という壁は、どう足掻いても越えることはできない。
俺が、男じゃなくて女に生まれればよかったのに…

そうすれば、秋を愛して愛して自分のものにしたい、という思いもきっと許された。
友人ではなく、恋人になれたかもしれない。












それから俺は、秋を意識的に避けるようになった。


秋と普通の友達になりたい。
普通でいい。一緒にいると楽しくてたまらない友人。

どう考えても簡単なことなのに、どうしてそれができないんだろう?


どうして、どうして好きになった相手がよりによって秋だったんだろう。
絶対に離れたくない大切な存在なのに、ずっと一緒にいたいのに、恋愛感情を抱いてしまった。


俺は夢の中で秋を犯した。
友人を恋人して想像の世界で汚す行為は、信じられない程に失意の果てへと通じる感情を生ませる。


秋と目が合わせられなくなった。
二人きりでいると苦しいと感じるようになった。


「今年は行けなかったお祭り、来年は絶対行こうな。俺、春乃と色んなところに行きたい」


まさか恋愛感情を抱かれているとは知らない秋は、眩い笑顔を浮かべながら俺に言葉を投げかける。


「…うん」


消え入りかけた微かな肯定を、秋はどう思ったんだろう。
今思うと、少し悲しげな表情を浮かべていたような気がする。


でも、もう分からない。
記憶の中の秋は徐々に鮮明さを欠いて、モザイクがかかったようになってしまった。


反芻してももう遅い。
何もかもが、遅すぎる。



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