01


神様


お願いします


もう少しだけ


もう少しだけ


彼女の笑顔を



キーンコーンカーンコーン――


授業終了の鐘が鳴る。


『じゃあ、今日はここまで〜。日直は日誌書いてさっさと持ってくるように』


担任の坂田先生が言い終わらないうちにクラスの皆が忙しく帰り支度を始める。


『志村、悪ィ。今日もアイツと帰ってやってくだせィ』


『解りました。ちゃんと送るので安心してくださいね』


『今度お礼になんか奢りやすんで』


じゃあ、と沖田君は手を振り、部活へと急ぐ。


『じゃあ、帰ろうか?』


「うん」と頷き、君は僕と並んで教室を出る。


最近、ここら辺で不審者が出ると噂になり


心配した彼氏の沖田君が、家が近いって事で


「彼女を送ってやってくだせィ」


と僕に頼んできた。


沖田君は、剣道部のエース。


大きな大会が近々あるみたいで部活を休めない。


でも、彼女が心配・・・


で、僕に白羽の矢が立てられた。


突然の事にビックリしたが、快く承諾した。


だって、密かに彼女に恋心を抱いていたから。


今、僕に見せる君の笑顔は


僕だけのもので。


僕にとって、この時間が何より大切なんだ。


帰り道の30分弱という短い時間だけど。


君の笑顔が独占できるのだから。


たわいもない話をしながら、君と歩く。


担任の坂田先生が、今日もJUMPを読みながら授業をしていたとか


沖田君と神楽ちゃんのバトルが凄かったとか


土方君のマヨネーズが気持ち悪いとか。



オレンジ色の空に照らされ


クスクスと笑っている横顔が僕には眩しすぎて・・・


ずっと見ていたい


誰も知らないところに、君を連れ去りたい。




・・・なんて。


勇気がなく告白すらできない僕だから


そんなことは到底できやしない。


それに・・・僕は君のその天使のような笑顔を失わせてしまうのが


一番恐いから。


僕じゃ、力不足だってこと自覚しているんだ。




だから、せめて・・・


神様お願いします


もう少しだけ


彼女と一緒に居れる時間を


僕にください


彼女の幸せを心から


願いますから



END



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