朝早く、屯所の廊下をバタバタと走る足音。
正体は解っている。
僕が想いを寄せているあの人。
監察という仕事をしているからなのか、好きな人だからなのか解らないけれど・・・
大きな音を立て、僕の部屋の襖を開けて
『山崎さーん!お聞きしたいことがっ!!』
やっぱり、君だったね。
ホントは起きていたけれど、
『・・・う〜ん。どうしたのこんな朝早く・・・僕、昨日の宴会のせいで二日酔いなんだけど・・・』
と、眼をこすり部屋の入口に泣きそうな顔で立っている君を見る。
『・・・ごめんなさい』
『いいよ。入っといで。・・・どうしたの?』
『はい、ありがとうございます。・・・実は、さっき副長に怒られてしまって・・・私、副長の大切にしているマヨリ―ンのフィギュアに落書きした・・・らしくって。でもでも、身に覚えがないんです。私・・・昨晩、そんなに酔ってましたか?』
『うーん、確かに酔っていたよ。でも・・・落書きした記憶がないんでしょ?なんで、君が怒られたの?』
『私がいつも使っている、文具が・・・副長のお部屋にあったみたいで・・・犯人は私だって。「切腹だ!!」って・・・』
愛しい人の眼からは、今にも涙が零れそうで。
少し切なくなる。
彼女を優しく抱きしめて
『・・・確かに君は泥酔に近い状態だった。でも・・・君はそんな低俗な悪戯をするような人じゃないって思ってる。もしかしたら、犯人が君をはめたかも知れないね。この前の沖田隊長のアイマスクの件も・・・』
『どうして・・・?何でこんな事』
『理由は解らないけど・・・でもね、これだけは言っとくよ。僕だけは、君を信じてるよ』
『山崎さん・・・』
とうとう眼から一筋の涙が流れて頬を濡らす。
僕は指で優しく拭ってやる。
どのくらいの時間が経ったのだろう?
泣きじゃくっていた彼女が顔を上げ
『山崎さんだけです。私の事をこんなにやさしく包んでくれるのは・・・』
と笑顔で言ってくる。
『フフ・・・そうかもね』
と僕はおどけて笑う。
『ありがとうございました』
と君は仕事に向かう。
その後姿を見つめながら、僕はほくそ笑む。
昨日、副長の大切なマヨリ―ンに落書きしたのは、僕。
以前の沖田隊長のアイマスクに細工をしたのも、僕。
局長の大事なお妙さんの写真に切り刻んだのも、僕。
屯所で宴会が開かれる度に起こす君の悪戯・・・・・・犯人は、すべて僕。
君が犯人になるように、わざと形跡を残す。
酔っぱらうと、記憶をなくす君だから、ね。
翌日、皆に怒られる度に、君は僕にすがってくる。
君に頼りにされているというのは、なんて嬉しい事なんだろう。
君にとって、僕だけが味方だという概念を植え付ける。
僕だけが君を理解している。
僕だけが君を幸せにできる。
そう君の心に浸食していく。
理由?
彼女を手に入れるため。
こんな事でもしなきゃ、彼女は僕の手中に入らない。
罪悪感?
そんなもんはとっくに捨てたさ。
さあ、早くおいで。
僕は待ってるよ。
心の中で、手招きをして・・・
END