逢えなくなって一週間が経とうとしていた。

彼女の事を思い出すだけで涙がでる。

僕は、あの時確かに『美味しくない』って言った。

でも、僕の言葉にはまだ続きがあって・・・

僕の本心を誤解されたまま、この恋は終わってしまったのだろうか?


『山崎の野郎、仕事もまともにできねェですぜ?どうしやす?』

『でも、**からは連絡きてねェんだろ?だったら仕方ねェだろうが・・・』



そして今、僕は張り込みの仕事をしている。

あんぱん生活6日目

あんぱんをかじりながら、今日も僕は泣く。

『うっ・・・ううっ・・ヒック・・・』

『・・・ったく。おい山崎、そんなんじゃ仕事にならねェ。ちっと頭冷やして来い!三時間だけ時間やる。サッサと行け!・・・おい、時間厳守だからな』

いつの間にか張り込み現場に来ていた副長に言われ、しぶしぶ部屋を出る。

こんな泣き顔で外に出たくないのに。本当にあの人は迷惑だ。

大きな溜め息を吐きながら、外階段を降りた先にはこの世で一番逢いたいと思っている**ちゃんがいた。


『・・・**ちゃん?』

『あの、ごめんなさい。連絡しなくて・・・本当に忙しくって。ごめんなさい!』

と頭を下げる彼女。


とりあえず近くの公園に移動した。

『実はね・・・あの後土方さんにお願いして、隊士の皆さんの稽古を休ませてもらってたの』

『・・・何で?』

『あの時の事・・・確かに皆に言われた事ショックだった。だけど一番ショックだったのは、退くんが嘘をついていた事。以前お弁当を食べてくれた時「美味しい」って言ってたよね?でも本当は美味しくなかったんでしょ?何でちゃんと言ってくれなかったの?』

『ご、ごめんね。君を傷つけたくなくて・・・』

『この悲しみと怒りを乗り越えるにはどうしたら・・・って、私は考えたの。母にお料理の猛特訓を受けよう!って。・・・これ食べてみて。今度はちゃんと言ってね』

彼女の手には、お弁当があった。箸を受け取り、僕は卵焼きを一口食べてみる。

『・・・この前より美味しいよ・・・美味しくなってるよ、**ちゃん!!』

『良かった〜』

『あっ、この野菜の肉巻きは・・・あんまり、かな?』

拗ねて頬を膨らます彼女の可愛さに、僕は彼女の膨らんだ頬を指で軽く押す。

『僕は、料理が上手くても下手でも**ちゃんが好きなんだ。ずっと一緒にいたいと思ってる』

やっと、あの時の言葉の続きが言えた。

『ありがとう。すごく嬉しい。・・・でも退くんに「**の作るご飯が一番美味しい」って言わせたいの!絶対言わせてみせるんだから!私のプライドにかけて!!』

そう言って拳を握る彼女は思ったより負けず嫌いな性格なのかもしれない。


『頑張ってね、**ちゃん』

僕は彼女の頬にキスをした。

情けない今の僕には、これが精一杯。

唇にキスができるように・・・

彼女にふさわしい男になれるように頑張ろう。

そう心の中で、決心した。


『そうそう、明日からまた屯所で稽古つけるんだ。仕返ししてやるんだから!あ〜楽しみ!!』

と隊長に似た笑みを浮かべている彼女に苦笑する。

後日聞いたところによると、あの時僕と一緒に話していた隊士は彼女によってみっちり鍛え直されたという。



あんぱん生活10日目・・・

ではなく

愛妻(予定)弁当生活4日目

日に日に美味しくなる彼女の手作り弁当を僕は

幸せをかみしめながら今日も食らう


END




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