そんな大好きな彼女には、欠点というか気になる事が二つがある。

一つ目は・・・

彼女は剣術が強い。

鏡新明智流(きょうしんめいちりゅう)の使い手だった。正直これを知った時は引いてしまった。


ある日のデート中、浪人に絡まれた時刀を持ち合わせていなかった僕は焦っていた。

負けて無様なところは見られたくないし、彼女が怪我でもしたら・・・・・・・・

などと回避策を考えていたら、彼女はキョロキョロと辺りを見渡し徐に落ちていた刀ほどの長さがある木の棒を拾い、そして構えた。

『ちょっ、**ちゃん!真剣に木の棒じゃ敵わないって!!危ないから棒を下して、僕の後ろに隠れて・・・』

**ちゃんは、僕の言葉に反応せず浪人を挑発するような表情をする。

『チッ、女のくせに!!斬ってやる!!』

浪人が鞘から刀を抜き斬りかかってきた。

『うわぁっ!』

バシッ!ガツッ!!

と2回程鈍い音がして、僕たちのやり取りを見ていた人達から歓声があがった。

彼女は木の棒で浪人をいとも簡単に倒したのだ。

『退くん大丈夫?怪我ない・・・よね?あっ!!土方さんと沖田さんだ。ちょうど良かった。この浪人連行してもらおうよ。そしたらデートの続きができるよ?』

何にも無かったかのようにいつもの可愛い笑顔で僕に話しかける彼女 。

・・・僕は驚きのあまり動けずにいた。

きっと傍から見たら、彼女に助けてもらって情けない男だろう。

彼女を護るために戦うが相手にこてんぱんに負けるよりも何百倍も何千倍も無様だろう。

実際僕は彼女に助けてもらったのだ。

しかも最悪なことに、少し離れた所で副長と隊長そして隊士達が一部始終見ていた。

皆も・・・固まっていた。

いや、副長だけは・・・怒りのオーラを発していた。

もちろん、不甲斐ない僕に対して。


『土方さん、この後の処理お願いしていいですか?』

『あぁ・・・やっとく。**は怪我してないか?』

彼女は大丈夫ですよ、と満面の笑みを副長に向けた。

『山崎ィ、土方の野郎マジ怒っていやすぜィ。帰ったら・・・』

隊長は楽しそうに黒い笑みを浮かべている。

その言葉通り、屯所に帰ると副長のお説教と直々に心身共にボロボロになるまで隊長のしごきを受けたのは言うまでもない。


その話を聞いた局長が**ちゃんに隊士の稽古を頼んだ。

可愛い女の子に稽古をつけてもらおうと大勢の隊士が意気揚々と参加した・・・が、**ちゃんにこてんぱんにやられていた。


『**ちゃん、隊士達はどうかな?』

『うーん・・・隙がありすぎて。斬り合いになった時に怪我しますよ?最悪死ぬかも』

と笑顔で恐ろしい事をサラッと言う

局長は**ちゃんを気に入り、その後も『時間がある時に』と稽古を頼んでいる。

副長も渋い顔をしながらも**ちゃんに

『いつも悪りィな・・・お礼といっちゃあなんだが団子を買ってきた。一緒に食うか?』

沖田隊長にいたっては

『**との手合せは面白れェ』

と隊士達に混ざり一緒に剣を振ってる始末。


いい加減にしてくれェェェエエエエエエ!!!**ちゃんは僕の恋人なんだ!局長や副長の小姓でもなく、隊士達の剣の師匠でもない。僕の大切な彼女なんだァァァアアアア!!!!

そう心で叫んだ。


隊士達に稽古を着けている彼女の姿を不機嫌さを隠すこともなく見ていると、**ちゃんは稽古を止め仏頂面の僕の所に来た。

『退くん怒ってるの?・・・稽古つけるの近藤さんに言って辞めさせてもらおうか?・・・近藤さんの依頼だったから・・・断ったら退くんの立場が悪くなると思って受けちゃったけど・・・』

と不安そうな顔で僕の顔を覗く。


――恥ずかしくなった。

彼女は僕の為にいろいろしてくれているのに・・・僕は嫉妬ばかりしていたから。

『ごめん。**ちゃんが皆に取られるんじゃないかって・・・みっともないや』

『私は、退くんが大好きだよ』

笑顔ではなく真剣な眼差しで言ってくれた彼女を、心から愛おしいと思った。


まぁ、これはただ僕が情けないだけで、**ちゃんは悪くはないんだけど。

僕の小さなプライドが少し傷ついたって話・・・


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