“真面目に恋をする男は、恋人の前では困惑したり拙劣であり、愛嬌もろくにないものである” カント(ドイツ)攘夷志士、桂小太郎は苦悩していた。
何に苦悩していたかと言うと、
この侍の国に天人が我が物顔で好き勝手している、腐りきった世の中の事でもない。
宿敵の真選組(カス)の過剰なまでの追跡でもない。
同じ村塾で共に過ごしたかつての同志で、今では怠惰した生活を送っている幼馴染の坂田銀時の事でも、
これまた、過激派テロリストと化し『ブッ壊し病』を患っている幼馴染の高杉晋助の事でもない。
もちろん、相棒のエリザベスの事でもない。
じゃあ、何に苦悩しているのか?
・・・・・・・・・それは、
交際相手の**の事である。
先日、銀時に相談しようと万事屋に出向いたが、俺の顔を見るなり戸を閉められた。
何とか中に入れてもらい相談したところ
『本人に直接聞け』
と鼻を穿りながら言われた。
冷たい奴だ。と思いながらも、銀時の言うとおり直接聞くのが一番だと結論付けた。
だが…聞く勇気がでないのだ。
今もこうして二人並んで縁側でお茶をすすっているのに、ついチラチラと**の顔色を窺ってしまう有様。
『…小太郎さん?どうかなさいました?難しい顔をして…』
『な、何がだ?俺はどうもしないが…』
『先程から、私を見ているようですが…』
『お前の勘違いだろう!俺は見ておらん!!』
大きな声で否定するが、**は疑いの眼で見てくる。
就寝の時間となり、寝室に二組並べて敷いてある布団を見つめる。
否、恋仲になり寝食を共にするようになってから、ずっと布団は二組敷いている。
大抵…というか、ほぼ毎晩一組しか使わないが。
うん?理由を知りたいだと?
夜な夜なニャンニャン、イチャイチャしているからに決まってるからでしょうがァァアアア!!
そこは察しろ!馬鹿者めがッ!!!!
……話を戻す。
最近、**の様子がおかしいのだ。
付き合い始めの頃は、俺が恥ずかしくなるくらい
「好き」
と言ってくれた。
朝昼晩問わず、俺と眼が合う度にだ。
ニャンニャンしている時なんて、もうずっと潤んだ瞳でこれでもかっ!って程にだ。
それが…ここ一ヶ月ほど、**の口から「好き」という言葉を聞かなくなった。
…他に好きな男ができたのだろうか?
…俺に愛想を尽かしたのだろうか?
悪い事ばかりが頭をよぎり、不安で攘夷活動もままならない。
もし、離別するような事になったら…
俺は生きていけないかもしれない。
そのくらい、**が俺の中でかけがえのない存在になっている。
敷いてある二組の布団の距離五寸程が、今の俺達の心の距離の様で…泣きそうになる。
徐に、一組の布団を片づけ**が来るのを布団の上で座って待つ。
暫くすると寝る準備を整えた**が寝室へと入ってきた。
『お布団…片づけたんですか?』
『どうせ一組しか使わんだろう?』
『えっ…まあそうですが。でも…』
首を傾げて考えている姿が、可愛いらしい。
ついでに言うと、風呂上がりで上気した顔が色っぽい。
…ムラムラします。
『…小太郎さん?』
と声をかけられ正気に戻り**を抱きしめた。
『ちょっ…小太郎さん?』
『お、お前はっ…』
勇気を振り絞る。
『俺の、ことをもう…好いていないのか?…ちゃんと答えてくれ』
**が発する言葉が怖くて、顔も見れず抱きしめたまま問う。
『…好き、では無いんです』
『・・・・・・そう、か』
ゆっくりと**から離れ立ち上がる。
『…今日は時間も遅いから、もう一晩共にせねばならん。…我慢してくれ』
そう言い、片づけた布団を敷き直そうと押し入れに向かおうとしたが、**に腕を掴まれた。
『ち、違うんですっ!「好き」じゃなくて…私は小太郎さんの事を「愛してる」んです!』
…「愛してる」だと?
『「愛してる」って何だか口に出すのが恥ずかしくて…それで――っん』
**の唇に自分の唇を重ねる。
『俺も、「愛して」おるぞ!』
と今度は深い口付けを交わした。
掛け布団を捲り
『さっさと来んか。…今夜は寝かさんぞっ♪』
『小太郎さんのエッチ』
『たっぷり可愛がってやるからな!』
『もう!!』
バタンッ!!!
[ オメェ等うるせーよ!何時だと思ってやがる!サッサと寝ろ、バカップルがッ!!! ]
エリザベスの逆鱗に触れ、俺達は大人しく寝た。
後日、町で
『銀時ではないか!』
そう言って駆け寄った俺に、面倒くさそうな表情で
『…で、**ちゃんとはうまく…いってそうだな』
『俺の誤解だったようだ』
『ふ〜ん、じゃあ…』
『何だ?この手は』
『アドバイス料だよ!俺のアドバイスのおかげだろうよ。ほら、サッサと寄せ』
この後、銀時に財布に入っていた札を全て持っていかれたのは言うまでもない。
無理矢理終わらせた感じでごめんなさい。
ヅラは難しいッス…
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