『別れたいの』
俺の眼をまっすぐ見つめ彼女は言い放つ。
彼女の名は、****。
付き合って2年になろうとしていた。
続けて**は言う。
『いろいろと…やり直そうかと』
−数日前−
私はお弁当を2つ持ち彼が居るであろう屋上に向かう。
ドアを開けると…
彼は、女子とキスをしている最中だった。
(はあ・・・これで何人目だろう)
と、思いながら2人に近づき
『晋助、お弁当ここに置いとくね。食べたら下駄箱に入れといて。私委員会で遅くなるから。お邪魔しました〜』
と言うと、彼は私に顔を向けずキスをしながら手を挙げる。
私は手を振り笑顔で屋上を後にした。
こういう事は何回もあった。初めうちは嫉妬と怒りで攻め立て大喧嘩もした。
慣れって怖いもので、今じゃ嫉妬もしない。
とりあえず、自分のお弁当を持って教室に向かう。さすがにあの場所で食べる気はない。
クラスメイトの妙ちゃんが、
『あら、彼とお昼食べないの?・・・もしかして、また?』
『うん。お邪魔だろうから戻ってきた。お弁当一緒に食べていい?』
午後の授業も終り、美化委員の集まりに行く。
担当は服部全蔵先生。
うっとうしい髪形をしているが綺麗好き。
先生は議題を黒板に丁寧に書く。
≪来月の活動について≫
美化委員では、放課後に毎月決まった場所を掃除する。
2・3日おきごとに校内や校庭のゴミ拾いや花壇の手入れなどを委員で交代で行う。
皆は面倒だと嫌がっていたが、私は何も考えずに黙々と作業できるので助かる。
だって、何かをしていないと彼の事を考えてしまうから。
嫌いになったわけじゃない。ううん、今も好きだ。
だけど・・・私の心は彼についていけなくなりつつある。
(このまま彼といて幸せ?楽しい?)
そう自分に問いかけると答えることができなくなっていた。
委員会が終り、帰ろうとした私を服部先生が呼び止める。
『**、最近何かあったのか?』
『はい?・・・特に何も』
『そうか・・・最近のお前の笑顔ひきつってるぞ?相談ならいつでもしてきていいから』
私は、笑顔で答える。
(大丈夫だと・・・)
自分でも薄々解っていた。
上手く笑えなくなった自分を。
やっぱりアイツが原因だわ。こんな状態のまま学生生活終わっていくの?
そんなのは嫌!私だって楽しく過ごす権利がある。
だから、私は言ったのだ。
『別れたいの』
と。
『はぁ??』
あまりの驚きで素っ頓狂な声がでてしまった。
『本気で言ってんのか?もしかして、この前の事怒ってんじゃねェのか?』
『何かね・・・学校が楽しくないの。で、原因は晋助だって気が付いたの。一度しかない学生生活を楽しみたいから別れるの。だから・・・さようなら。』
俺に背を向け、去っていく**に声すらかけることができず佇んでいた。
きっかけは、俺の一目惚れだった。
欲しいものは手に入れる・・・
**を自分の女にするため、用もないのに会いに行ったりもした。
初めは俺を警戒していたが、徐々に心を開いてくれ笑顔を見せてくれるようになった時は嬉しくて、アイツ等にノロケたりもした。
付き合って2年。
俺が何をしていようが煩い事を言わない女。
≪良くデキた彼女≫
とアイツ等も言っていた。
いや、俺がそう強いてきたのかもしれねェ。
自分が機嫌の悪い時は、あからさまに**にあたっていた。
電話もメールも気が向いた時だけ。何度も無視していた。
デートなんてまともに行ったことがねェ。放課後一緒に帰るくれェだ。
それでも、**は顔を合わせれば笑ってくれていた。
・・・最近、笑っていたか?
思い出せない自分がいた。
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