窓から夜空を眺める。
『今度はいつ逢えるの?』
ここには居ない貴方に問いかける。
あ、箒星。
幼子のように急いで願いを呟く。
願いはひとつ。
貴方との『約束』が欲しい―
こっちの都合も考えず深夜にふらっと現れて私を抱く。
甘い言葉なんて囁いてもくれない。
明け方に帰る時に必ず言う言葉は、
『浮気なんざすんじゃねェぞ』
それは貴方の方でしょ?私以外に肌を重ねる女は何人いるの?
嫉妬で狂いそうになる。
いい加減にして。私を苦しめないで。
『…うん』
今日も本心を言えないまま、背中を見送る。
部屋中に漂っている紫煙と刻み煙草の匂い。
再び布団に入れば貴方の香りと温もりに包まれる。
そして……
今日も一人涙する。
この繰り返しに吐き気がする。
でも、でもね…
それでも貴方が好きだから、貴方だけを愛しているから…本心を呑みこむ。
『今夜はデケェ月だな』
煙管の灰を灰吹きにポンと落とし、私に膝枕をするように促す。
暫くすると眼を閉じ規則正しい寝息を立てる。
男なのに寝顔が美しく感じるのは、贔屓目ではない。
長い睫毛、筋の通った鼻、薄めの唇。
そして、この隻眼で見つめ私を捕らえて逃がさない。
貴方という毒に侵されてしまった。
知らぬ間に涙が溢れ、頬を伝い愛しい男の頬にぽたぽたと落ちる。
涙を止めなくては…と思うが止まらない。
『…何泣いてんだよ、お前ェは』
呆れたような口調で聞いてくる。
『何でもないの』
『…言ってみろ』
『本当に何でもな―』
『言え』
強い口調に体が強張る。
『……今度は、いつ逢え…るの?他に…何人女…がいるの?本当に私の事好きなの?何で約束してくれないの?私は貴方との約束が欲しいの…っ!』
言い出したら止まらない本心を彼にぶつける。
うぅ、と両手で顔を覆い声を上げ泣き出した**に驚いた。
いつも感情をあまり表に出さない女だからだ。
実際、俺にも**が何を考えている事が解らねェ時もある。
こんなに可愛い女だったとはなァ。
『クク、ハハハ…』
何だかおかしくなって笑う俺を睨んできた。
**の頬を濡らす涙を舐めとってやる。
『…お前ェがそんな風に思ってたなんてなァ。フッ…いいか、よく聞け。他に女なんざ居ねェ。お前ェと出逢ってからは遊郭にも行ってねェ。お前以外の女に興味がねェんだよ、俺ァ』
『…好きって言ってもくれない』
『「好き」や「愛してる」なんざ軽々しく言うもんじゃねェよ。安っぽい言葉になるだろうが』
『約束は?何でしてくれないの?』
『俺ァ幕府の狗に追われてんだ。いつ何があってもおかしくねェ身だ。果たせない可能性がある約束はしねェ主義だ』
**は納得したような腑に落ちないような微妙な表情で俺を見つめる。
『…「約束」が欲しいか?』
無言で何度も頷く**。
『…やっとお前ェを迎い入れる準備が整った。今から俺と一緒に来い。俺の傍に置いてやらァ…幸せかどうかはお前ェの捉え方次第だがな』
そう言って唇を重ね、互いの小指を絡ませ
『一生愛してやる。約束だ、**』
と囁いた。
END
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