JOY4 | ナノ
窓から夜空を眺める。

『今度はいつ逢えるの?』

ここには居ない貴方に問いかける。



あ、箒星。

幼子のように急いで願いを呟く。

願いはひとつ。

貴方との『約束』が欲しい―



こっちの都合も考えず深夜にふらっと現れて私を抱く。

甘い言葉なんて囁いてもくれない。

明け方に帰る時に必ず言う言葉は、

『浮気なんざすんじゃねェぞ』

それは貴方の方でしょ?私以外に肌を重ねる女は何人いるの?
嫉妬で狂いそうになる。

いい加減にして。私を苦しめないで。


『…うん』

今日も本心を言えないまま、背中を見送る。



部屋中に漂っている紫煙と刻み煙草の匂い。

再び布団に入れば貴方の香りと温もりに包まれる。

そして……

今日も一人涙する。

この繰り返しに吐き気がする。

でも、でもね…

それでも貴方が好きだから、貴方だけを愛しているから…本心を呑みこむ。




『今夜はデケェ月だな』

煙管の灰を灰吹きにポンと落とし、私に膝枕をするように促す。

暫くすると眼を閉じ規則正しい寝息を立てる。

男なのに寝顔が美しく感じるのは、贔屓目ではない。
長い睫毛、筋の通った鼻、薄めの唇。
そして、この隻眼で見つめ私を捕らえて逃がさない。


貴方という毒に侵されてしまった。


知らぬ間に涙が溢れ、頬を伝い愛しい男の頬にぽたぽたと落ちる。

涙を止めなくては…と思うが止まらない。



『…何泣いてんだよ、お前ェは』


呆れたような口調で聞いてくる。


『何でもないの』


『…言ってみろ』


『本当に何でもな―』


『言え』


強い口調に体が強張る。


『……今度は、いつ逢え…るの?他に…何人女…がいるの?本当に私の事好きなの?何で約束してくれないの?私は貴方との約束が欲しいの…っ!』


言い出したら止まらない本心を彼にぶつける。



うぅ、と両手で顔を覆い声を上げ泣き出した**に驚いた。

いつも感情をあまり表に出さない女だからだ。
実際、俺にも**が何を考えている事が解らねェ時もある。

こんなに可愛い女だったとはなァ。


『クク、ハハハ…』


何だかおかしくなって笑う俺を睨んできた。

**の頬を濡らす涙を舐めとってやる。


『…お前ェがそんな風に思ってたなんてなァ。フッ…いいか、よく聞け。他に女なんざ居ねェ。お前ェと出逢ってからは遊郭にも行ってねェ。お前以外の女に興味がねェんだよ、俺ァ』


『…好きって言ってもくれない』


『「好き」や「愛してる」なんざ軽々しく言うもんじゃねェよ。安っぽい言葉になるだろうが』


『約束は?何でしてくれないの?』


『俺ァ幕府の狗に追われてんだ。いつ何があってもおかしくねェ身だ。果たせない可能性がある約束はしねェ主義だ』


**は納得したような腑に落ちないような微妙な表情で俺を見つめる。



『…「約束」が欲しいか?』


無言で何度も頷く**。


『…やっとお前ェを迎い入れる準備が整った。今から俺と一緒に来い。俺の傍に置いてやらァ…幸せかどうかはお前ェの捉え方次第だがな』


そう言って唇を重ね、互いの小指を絡ませ


『一生愛してやる。約束だ、**』


と囁いた。


END

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