JOY4 | ナノ
二年程前に太陽の光に銀髪を照らされ、恥ずかしそうに視線を逸らし告白してきた人。

私より十歳位年上の人。


付き合ってるうちにどんどん惹かれていった。

異常なまでの甘味好きな所も、常に金欠に陥ってる所も、お酒に弱いくせについ呑み過ぎる所も…口下手で愛の囁き一つ言わない所も好きだった。






だけど


だけど



寂しさが少しずつ少しずつ、私の心を蝕んでいく。


『出かける』と言って数日間戻って来ない。

吉原の人と出かけて行く姿も多々見かける。

たぶん、浮気とかそんなものではないと思う。

ううん、思いたい。



帰って来たと思えば、身体中傷だらけで…

理由を聞いても

『お前は知らなくてもイイ』とか『何でもねェよ』と煩がられる。

貴方は何にも話してくれない。

いつも私は蚊帳の外。

どんな仕事をしてきたのか一切言わないのは、彼の優しさなのだろうか?



何かある度に、乱暴に抱かれる事もあった。

少なくともその時は、私を愛しいと思い抱いてはいない。

怒りや苛立ちの捌け口かなんかだろう。


隣で寝ている貴方に

『私を愛してくれている?』

と聞いてみた事があるなんて貴方は知らない。


どうしてこんな事になったのだろう。

もう私は彼にとってお荷物なのだろうか?

私はずっと変わらず彼だけを必要とし愛しているのに。

彼との距離が離れていったのは、いつからだろうか。


彼の腕に手を伸ばしても伸ばしても届かない。

彼の背を追いかけても追いかけても追い付けない。

それでも彼を必死に追いかける。




でも…

もう疲れてしまったの。

彼を好きになればなるほど、辛いの。


愛おしい貴方と…

ずっと一緒にいたかった

ただそれだけ願っていた。





明け方、寝ている彼の腕からスルリと抜け出し、起こさないよう静かに身支度を整える。

台所に行き簡単な朝食を用意して私は万事屋を後にする。

合鍵は封筒に手紙と共に入れ、郵便受に入れた。

コトン…

と小さな音とともに、私の初恋は終わった。


『さよなら、銀時』




新八の煩い声で起こされ、隣に寝ているはずの**がいない事に気付いた。

『アイツ、今日仕事か…』

いつもの事なので、特に気にも留めずに皆で**の作っていった朝飯を食べる。


いつもの光景…

『朝飯くらい食べていきゃあいいのにな』

呟きながら味噌汁をすする。



『あ、銀さん郵便受に手紙が入ってましたよ』

新八に封筒を渡され封を切る。


中には手紙とこの家の鍵。

手紙には、アイツの思いが綴ってあった。

『なっ…!』

慌てて万事屋を飛び出した。



**の仕事先に行ったが、一週間前に辞めていた。

**の部屋に行き合鍵で玄関のドアを開けると、備え付けの家具以外何も無かった。


こっ恥ずかしいから。と断ったのに

『じゃあ、新八くんや神楽ちゃんに内緒で私の家で使おうね』

そう言ってこの部屋で使っていたお揃いの茶碗、箸、マグカップも無い。


『何で…こんな…』




俺は、町中を駆け回って**が行きそうな所をしらみつぶしに探した。
小間物屋、服屋、映画館、公園…


『クソッ!どこにも居ねェ…』

それでも、俺は探し続けた。


アイツが行きたがっていた遊園地に連れて行ってやればよかった。

あの映画も一緒に観てやればよかった。

カッコつけてないで町を歩く時、手を握ってやればよかった。

俺達のために作ってくれている飯を『美味い』と素直に言えばよかった。

ジャンプなんて読んでねェでアイツの話をちゃんと聞いてやればよかった。

幾度となく怪我をした理由もきちんと話してやればよかった。


後悔ばかりが頭の中を駆け巡る。



なんでもっと甘えさせてやらなかった?

なんでもっと『愛している』と言ってやらなかった?


いつも、自分の我儘だけを押し付けていた。

それでも…俺からは離れていかないと過信していた。


**とこの先も

ずっと一緒にいれる

そう信じていた。




………………

………




赤橙色に染まりつつある空を背にし立ち尽くす。


『無様だな、俺…』


何より大切にすべきだったのに…

一番大切なもんを失っちまった。





握りしめていた**の手紙を見返す。

ところどころ文字が滲んでいる。

きっと泣きながら書いたんだろう。



…俺は、お前を何度笑わせた?

…俺は、お前を何度怒らせた?

…俺は、お前を何度泣かせた?

…俺は、お前を何度苦しめた?

…俺は、お前に何度「幸せ」だと思わせる事ができた?


手紙の文字が滲む。

俺は人目もはばからず、**の名を叫び泣き崩れた。




私は、始発で京に来ていた。

銀時と別れようと決めたのは二ヶ月前。

ばれないよう荷造りをし京でのアパートも探し決めていた。


私は狡いから…

直接別れの言葉を言わない。

銀時があっさり別れを承諾するのが怖かった。

だから、このような形で別れた。




河原で夕日を一人眺める。

突風が吹き

『**…』

と私の名を呼ぶ彼の声が聞こえた気がした。

聞こえるはずのない声に、涙が零れた。





『おい…お前ェこんな所で何やってんだァ?』

話しかけられ振り返る。

菅笠を深くかぶり手に煙管を持ち女物のような派手な柄の着物を着流し立っている男。

異様な雰囲気に言葉が出ない。



『…お前ェ、俺と一緒に来るか?』



END

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