『…帰って来たか?』
玄関側でカタカタと小さな音がし、出迎えようと起き上がった。
…が、どうやら隣人らしい。
大きくため息を吐き、煙管に火を点けた。
ゆらゆらと漂う紫煙を見つめていると**の見慣れた笑顔が現れた。
話しかけようと口を開いた途端、煙と共に消えていく。
静まり返った部屋で時計の音だけがカチカチカチ…と響いて寂寥感をつのらせる。
『早く帰ってきやがれ。俺に寂しいと思わせんじゃねェよ』
あぁアイツは……
**はいつもこんな気持ちでいつ来るか解らねェ俺を待っているのか?
**の気持ちなんざ、ちっとも考えていなかった。
カチカチカチカチカチカチ…
次第に耳障りになってきた時計を刀を鞘に納めたままぶっ叩いた。
ガシャン、と大きな音をたて硝子を散らばせながら床に落ちた時計に、ざまあみろ。と悪態をつく。
気分が幾分軽くなり、再び寝転がり眼を閉じた。
ウトウトとしかけた時、ガチャリと玄関が開き**が部屋に入ってきた。
『ただいま、晋助』
『…あァ。腹減った。酒と肴持って来い』
『はいはい』
と、背中を向けている俺に答える**は、きっといつもの笑顔でこっちを見ている、と声色を聞いて解る。
台所に移動し、酒の用意をしている**に後ろから抱きつく。
『今日は甘えん坊さん?…私が居なくて寂しかった?』
『…ほざけ』
フフフ、と笑う**をさらに強く抱きしめた。
END
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