銀時は激怒した。
必ず、浮気の容疑者をとっ捕まえて問いだたさなければと決意した。
今日、久しぶりの仕事を終え町に繰り出した。ここ数日ある事で悩んでいたため気分転換にと。
どうも彼女が俺を避けてるようだ。あの日から電話しても「忙しい」とか「仕事中」だとか言ってろくに喋ってねェし。理由が解らないから何をしていても頭ん中でぐるぐると探っている状態。
家に居たって神楽や新八が煩いので酒でも呑んで、と繁華街をぷらぷら。
かぶき町で最も賑わっている通りに差し掛かってた時、眼に飛び込んできた光景。
自分と恋仲の女が、チャラチャラしたホストに膝まづかれ手の甲にキスされ嬉しそうに顔を紅潮させている姿。
始めこそ驚いて動く事もできなかったが、次第に全身の血が煮えたぎり怒りで支配されてきた。
「なあ…銀さんと一緒に棲まねェか?」
『……急にどうしたの?』
「嫌か?」
『嫌じゃないけど…それはちょっと』
「なんで?俺はちゃんと花子との将来考えて言ってるんですけどォ」
『私も銀時と、おばあちゃんになっても一緒にいたいよ?だけど…ね、結婚もしてないのに、一緒に棲むってのは…私の中では無いわ、うん無い』
「ふーん…まあ、この話は後日ゆっくりしようや」
『…うん、ごめんなさい』
ったく、花子のヤツ…俺の気持ちも知らないで断るたァ、いい度胸してんじゃねェか。
俺はジャンプを読むフリをして、持ち帰った仕事をこなしている花子を横目で見ていた。
花子と出会ったのは1年程前。仕事で訪れた会社。
依頼結果の報告も終え、報酬を受け取り帰ろうとエレベーターに乗ったところ、
『待って!乗ります!』
と叫びながら乗り込んで来たのが花子だ。
『待っていただいて…ハァ、ありがとうございます』
息も切れ切れで、笑顔でお礼を言ってきた。
「いえいえ…」
と顔を逸らし答える俺。
実は、花子の笑顔に俺の強靭なハートを射抜かれてしまい、顔が一気に熱を持った。惚れたとかじゃねェから…
そうそうアレだよ、アレ。うんアレしかねェよ。
…ダァァアア!解ったよ、認めますよ!そうですぅ一目惚れしたんですぅ!!
だーかーら、赤くなっていると思われる俺の顔を見られたくなくて逸らしたんですぅ!!
この狭い空間に二人っきりという状況は正直息苦しい。彼女もそうなのか階を示すパネルをじーっと見つめている。
25…23…19…と降っていくエレベーター。
早くこの状況から解放されてェという思いと、もう少し彼女と居たいという思いが交錯して何とも複雑な心境だった。
…16階に差し掛かった時、ガクンッ!!と大きな揺れと音を立てエレベーターが停止した。
「おわっ!」
『きゃっ!!』
激しい揺れに彼女の身体は大きく揺さぶられ倒れそうになったところを、俺は何とか抱き留めた。
『ご、ごめんなさい…』
驚きと恐怖で震えながら、謝罪して俺から離れようとする彼女を引き寄せ
「あァ、落ち着くまでこのままでいいから」
『…ありが、とうございます』
小刻みに震えている彼女を落ち着かせるように少しだけ腕に力を入れた。
これ、役得?俺得?腕の中には少し青ざめた顔をした彼女。抱き心地はふんわり柔らかいい香り。どこぞの柔軟剤のCMみてぇな感じ?
…やべ、銀さんのギンギンさんが起きかけてきた。このまま密着してたらさすがにバレそうだったんで聞いてみる。
「…大丈夫か?」
『あ、はい…ごめんなさいッ』
と俺の腕から離れ頭を下げてきた。俯いたままの彼女を横目で見つつ考える。
もしかしてこれって、いわゆる…あまりに俺のドストライクな彼女と故障したエレベーターで二人っきりなんて「運命」と言うんじゃね?なんて短絡的な考えに思わず笑みを浮かべる。
「あァ、気にする事ァねぇよ」
未だに耳まで赤くして俯いてる彼女の可愛さに胸の鼓動が速まる。
マジで可愛いんですけどこの娘。今時の言葉でいうとキュン死とか萌え死にとかって言うの?
非常呼び出しのボタンをファミコンのBボタンのごとく押しまくり警備のオッサンにエレベーターを動かしてもらい、めでたしめでたし。
はい、それではさようなら〜
じゃなくて、ロビーで
「あの、よォ…良かったら今度お茶でもどうよ?美味い甘味屋知ってんだけど」
と安っぽい誘いをしてみた。どうせ断られるんだろうな…と思っていたのに
『…ご迷惑おかけしたので、良かったら私にお詫びさせてください』
と予想外の返事。
いや…迷惑なんてかけられてねェけど?逆にラッキーでしたよ?まあ、願ってもねェ事なんで三日後の15時に約束を取り付けた。
その後、何回か逢って親睦も深め、そんで俺から告白して付き合った。
聞けば花子は、俺が初めての恋人。銀さん頭ん中で小踊りしちゃったからね?初デート、初手繋ぎ、初キス、初めてのお泊り、初エッチ…
好きになった女がすべての初めてを俺にくれるんだからそりゃあ男として嬉しいだろうよ。
しかも才色兼備、料理も上手いし気立ても良い。幾度も肌を重ね俺好みに躾けた躰。恥ずかしそうに頬を染め瞳に涙浮かべながらおねだりしちゃうくらいだし。
どれを取っても申し分ねェ。逢う度に花子にどんどん惹かれちまって、この齢で初めて本気の恋をしちまった。
少しだけマダオなこの俺に花子も惚れている…はず。
当初の予定では俺に溺れさせるつもりでいたのに…いつのまにか俺が足の爪先から天パの毛先までどっぷり溺れちまってた。
で、先日意を決してプロポーズした。
…が、それからだ。それから花子の様子がおかしくなっちまったんだ。
何がいけなかったんだ、と考えながら歩く俺の目線の先に花子がホストに惚けてる姿。
ゴシゴシと眼を擦りもう一度みる。
俺と逢う時間ねェのにそういう店に行く時間はあるのか?これって…浮気現場に遭遇ってやつ??あれ?もしかして俺振られちゃった?愛想尽かされた感じ?
……いやいやいや、そりゃねェわ。俺なりに花子を大切にしてたし?もちろん俺は浮気なんざしてねェし?
長谷川さんと毎晩のように飲み歩いてるからか?ここ数ヶ月大きい依頼も無くぐうたらしてたからか?
……いやいやいやいや、多少だらしなくて甲斐性がねェのも知っていて俺と付き合ってたはず。
アイツに浮気なんざされる理由がわかんねェ…
…なら、とっ捕まえて聞きだすしかねェ。
「待てこらァァアアア!花子!!」