「寒ぃ…」
「寒いねぇ…」
久しぶりに一緒に帰っているというのに、会話が続かないのは寒さのせいであって私のせいではない。
マフラーに半分顔を埋め、ちらりと隣を歩く彼を見る。
彼とは腐れ縁で中学一年生からの六年間同じクラス。で、いつの頃からか恋人という関係。
高校に入って、バスケットを辞めて長髪になったり素行が悪くなったり…
中学MVPという実績と人よりも高いプライドが災いして、バスケットを辞めてしまった事により心の均衡が崩れたのだろう。
少々時間がかかったけれど、またこうしてしっかりと前を向いて歩いている彼が私は好きだ。
「寿はカッコイイよ」
「…は?」
「なんでもなーい」
思わず発した言葉に恥ずかしくなって笑って誤魔化した。
途中コンビニで買ったホットココアを両手に持って公園のベンチに腰を掛ける。ココアを一口飲みこむと冷えた身体に染み渡る。
「やべぇ…小論文やべぇよ。作文なんて小学校以来書いてねぇ」
スポーツ推薦枠でセレクションに通った彼は、面接と小論文という試練が待ち構えているのだ。
「小論文と作文と一緒にしてる時点でダメでしょ。つか、面接の方が心配なんだけど私…きちんと受け答えできる?敬語使える?」
「バカにすんな!あ、これ誕生日プレゼント」
渡されたのはさっき買ったであろうコンビニケーキ。
…うん、美味しいけどね。これ好きだから昨日も食べたんだけどね。
「さてはお主、忘れてたな!私の誕生日…」
「覚えてたに決まってんだろ」
「そうだとしても、可愛い彼女の誕生日にコンビニケーキはないと私は思うよ、うん」
「…金が無かったんだよ。チッ、文句言うならやらねぇ!」
「ごめんなさい喜んでいただきます」
嬉しくて涙が、と泣き真似までして手にしたケーキを頬張る。うん、やっぱり美味しい。
「そういえば、差し歯の代金おばさんに返し終わったの?」
「あーまだ。差し歯高すぎ」
大変だね、なんて言ったら、金貸してくれと言われたから丁重にお断りした。世の中甘くないのだよ寿くん。
「…俺さ、春から東京だろ?多分あっちに住むことになる」
「うん…」
いつになく真剣な声に心臓が跳ねた。
「…でさ、これ」
鞄から出し渡された物。【スポーツ栄養学の基礎】と大きく書かれた本。
「今以上にバスケ頑張らないといけないし、一人暮らしになるから食事とか適当になるっつーかもともと料理なんてしたことないし、できれば花子にサポートしてもらいてぇなって。お前の行きたい学部、いくらでも東京の大学にはあるし…まだ願書間に合うだろ?」
私の顔を覗き込む瞳に間抜け顔の私が映る。
「えーと…そ、んなこと急に言われてびっくりした」
「ずっと考えてたんだ。遠距離って程の距離じゃねぇけど、俺には遠くて。やっぱり会いたい時に会いてぇし…花子に傍にいて欲しいつーか。あわよくば一緒に住めたらなーとか」
ダメか?なんて不安げに聞いてくる彼に、私は…
「
I will fulfill your wish. 」
「は?…意味解らねぇ」
「明日までの宿題だよ」
さあ帰ろう、と立ち上がり彼に手を差し出せば、不服そうな顔をして私の手を取った。
(実はすでに彼を追って東京の大学に進学するつもりなのはまだ内緒)
END
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下心と青春