<女としての幸せ> 

…母の最期の言葉。
私にはずっと解らなかった。
恋愛なんてする環境にいなかった。
私には…自由がなかった。

…ただ今は、貴方が隣にいるから
私は死ぬときに『幸せでした』
と、きっと言える。





私は田舎で道場を営んでいる家で産まれた。

父は、剣はもちろん勉学にも長けていて立派な方だった。

母は、良妻賢母。

父を尊敬し一人娘の私にとても優しかった。

幼い頃から剣術と勉学を学んでいた。

父の指導は厳しかったが、尊敬する父の様になりたくて頑張っていた。


私が8歳の時、攘夷戦争で父が亡くなった。

母も後を追うように病気に罹り亡くなった。


母の最期の言葉は

『貴女には女としての幸せを、好きな人と幸せな家庭を築いてほしいの。』


道場の仲間も皆戦争の犠牲になった。


眼の前の光景は、まさに地獄絵図。天人に殺された人の屍が、数えきれないほど転がっていた…。

私は一人家に隠れ、毎日天人に怯えながら過ごしていた。

どのくらい一人で過ごしただろう。


ある日、私の家に中年の男性が訪ねてきた。

『私は君の父上の知り合いで、攘夷戦争に参加した君の父上を心配し訪ねてきたんだよ。』

と言った。


両親が亡くなり、一人になった事を告げると、

『私の元に来なさい。貴女のご両親に代わって私が育てます。安心してついて来なさい。』

そう言って、ふるえる私の手を優しく握ってくれた。


それが師匠との出会いだ。

彼もまた、剣術を教えていた。

『父のように強くなりたい』

今まで以上に剣に勉学に励んだ。

友達もでき、毎日楽しかった。

稽古の合間に、鬼ごっこや竹とんぼなどで遊んで子供らしい生活だったと思う。



16歳の誕生日、師匠から呼び出された。

『この刀を抜いてみなさい』

言われるがまま抜いて見せると、師匠は哀しい表情でこう言った。


『お前を……この刀の帯刀者に…任命する』

意味が解らず聞く。




…言葉が出なかった。


だってその刀は……

《青龍》という名の妖刀だった。

刀が選んだ者だけが刃を鞘から抜ける。

つまり他の者が刀を抜こうとしても…鞘から抜けない。

選ばれし者だけがこの刀を使うことができるのだ。

《青龍》もともとは対で存在する。

《白虎》がもう一つの刀の名前。

簡単に言うと

《青龍》が善

《白虎》が悪

と言われている。


それぞれだけでも、妖刀だから力を持てるが、

二本手にした者は、それにも増して多大な強さ

を手にすることができる。



『《白虎》の持ち主にこの先命を狙われるかもしれない』


この言葉が私の人生を変えた。



一年後、二人の護衛を付けられ、私は各地を

転々とする生活をしていた。

護衛は、道場で共に学んだ更科柊(さらしなし

ゅう・男)と水城桃(みずきもも・女)だ。

二人ともかなりの実力の持ち主だ。


危ないからと断ったのに、『**を護りたい』と言ってくれた。

こうして三人の旅が始まった。






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