『こんばんは〜。あれ〜銀さん来てたの?』
『あぁ』
『お登勢さん、俺も酒ちょうだい。あっ!**ちゃん来てたの??いやぁこの前はごちそうさま。』
『長谷川さん、こんばんは。』
『えっ?知り合い?』
『うん。この間呑みに来たんだけど、俺サイフ忘れちゃってさぁ。お登勢さんに殺されかけた時に、**ちゃんに助けて(奢って)もらっちゃったんだ。やっぱタダ酒ってうめぇな。』
長谷川のマダオ発言に呆れながらも、一緒に呑むよう促す。
『そういえば**ちゃん、歌舞伎町きてまだ日が浅いんだよね?』
『はい,半年くらいです。一番長く住んでいたのが京です。その後も大坂など、いろんな所に。』
『でもさぁ、来てすぐ仕事みつかってすごいよね。しかも寺子屋の先生だよ!俺なんてもう何年も定職ついてねぇよ』
『**ちゃん…京での仕事は?』
『置屋のお手伝いを。舞妓さんの体調が悪い時は、代わりにお座敷に出ることも。こう見えて舞踊はそれなりに踊れるんですよ』
『**ちゃんの舞妓姿見てみてーよ、おじさん。昔はさ、接待でよくいったんだよ。お酌してもらって、踊り見て。あの頃は楽しかったのに…。セクハラとかなかった??』
『無いですよ。舞妓と言っても偽物でしたから。たまにしか出てなかったですし。あっ、何故かいつも指名をしてくださる方がいて、変わったお客様で「芸事はしなくていいから、一緒に月を眺めているだけでいい」っていうお方でした。でもその方と過ごす時間は好きでしたね。一緒に眺める月は、いつもより綺麗に感じましたから。』
『ふ〜ん。その男の事好きだったんじゃねぇの?』
『う〜ん…お互いそんな感じはなかったですけど。ただ、同じ空間にいるのが心地いいというか、癒されました。』
『万事屋さん…えーと銀さん?は、そういう所には行かれないのですか?』
『金ねぇし、行った事ねぇよ。』
『銀さんは、キャバクラ専門だもんな!たまに大人の男の欲望を発散させるお店かな』
『やっぱり男の方って、そういうお店に行かれるのですね。』
『い、行かないからね!銀さん大人のお店なんて行かないから!!』
『フフフ。そんなにムキにならなくても。』
その後も他愛もない会話で盛り上がった。
帰宅後、楽しみ過ぎたことを反省しつつ酔って火照った顔を手で仰ぐ。
お店で呑むのは好きだ。
皆の会話を聞いていると楽しかった。
うらやましいとも思った。
今まで、できるだけ人との接触を控えるように生きてきた。
自分の事情に巻き込みたくなくて。
でも、今日みたいな雨の日は…一人だと泣いてしまいそうで…人の集まる場所に行ってしまう。
―数日後−
今日は晴れていたがお登勢さんのお店で呑んでいた。
柊と一緒に。大事な話があるといわれ、店の奥のテーブルで呑んでいる。
柊と桃は私以上に情報収集で動いている。女の私が帯刀者だと解らないよう、<帯刀者は男>ということになっていた。
柊が囮だ。
そこまでして…と思ったが師匠が柊と桃と話し合い決定した。
『今日も仕事ねぇな…。』
ふと、窓の外を見る。
誰だ…あの男?
こっちに向かって**と歩いてくる。
恋人??イヤイヤイヤ…それはねぇだろ。
この町に来たばっかだし?最近は俺ともいろいろ話したりするしぃ?
まあ、世間話程度だけど。つーか、アイツ…結構男前じゃね?
いろいろ考えていたら、二人はお登勢の店に入っていった。
俺は事実を確かめるべく、お登勢のところへ走った。
二人は奥のテーブルで話していた。
できるだけ二人の席に近いカウンターに座る。
聞き耳をたててみるが声が小さく聞き取りにくい。
お登勢とキャサリンも**の様子がいつもと違っていたので気になっているみたいだ。
他の客の相手をしながら、聞き耳をたてている。
『きっと不倫ですよ。あの女、清純そうな顔してとんだアバズレなんですよ。』
『くだらない事言ってないで、仕事しな!!』
柊の表情が硬い。きっと良くない話だろう。
『相手が動き始めたかもしれない。俺と桃はこれから情報の確認をしに江戸を出る。極力早く戻るが…大丈夫か??』
『うん。私が強いって事、二人が一番知っているでしょ?』
『…そうだな。いいか、油断するな。襲ってきたら迷わず斬れ。実戦経験がなくてもお前ならできるだろ?青龍はそのまま保管しておく。師匠から護身用にもらった刀を使え。』
『ふふ、御意』
と笑いながら答えた。
『笑い事じゃないだろ。桃なんてお前が心配で今にも泣きだしそうなんだからな。…俺はそろそろ行くが、お前はどうする?』
『…もう少し呑んでいく。』
『気をつけろよ。まあ、ここの連中は大丈夫だろう。二人ほど聞き耳立てて話を聞いているみたいだが…。知り合いだろ?最近話に出てくる奴らか?お前の事が心配なのだろう…どうするかは、お前の判断に任せる。』
『柊…お父さんみたい』
『そんな老けてはいない!大体お前の2歳上だ。』
『はいはい。そうでした。頼りになる兄と可愛い妹をもって幸せですよ。』
『じゃあ、俺は行く。何かあったらすぐ連絡しろ。……死ぬなよ。』
…青龍?…斬れ?…死ぬなよ?
『銀時、**は…あの娘はいったい何者なんだい?物騒な事に巻き込まれいてるんじゃ…』
所々しか会話が聞こえなかったが、恋人同士の楽しい会話ではない。
本人に聞いてもいいんだろうか?いや、はぐらかされるだろ。
『死ぬなよ』…か。
死は恐くない。
あの時、師匠が手を差し伸べてくれなかったら、とっくに死んでいただろう。
恐いのは、大事な人を失うこと。
初めの潜伏先で、仲良くなった友人を助けられなかった。
私と別れ一人になった時に、強盗に殺されてしまった。
駆け付けた時には、血にまみれ倒れていた。
もう少し一緒にいたら。私が強盗の気配に気づいていたら。
私は柊と桃を護ることができるんだろうか。
今は二人を失うことが怖い。
それにしても…柊との話を聞かれた?
盃を口につけながら横目でカウンターの二人を見る。
…探りをいれてみようか。
『こんばんは、銀さん。一緒に呑んでもいいですか?』
『えっ?あぁ…どうぞ。そういえば彼氏帰っちゃったけど?』
『フフ、彼氏なんかじゃないですよ,幼馴染です。名前は柊っていうんです。かなり口煩い兄上って感じです。』
『えっ!そうなの??彼氏じゃないのかよ。』
その後二人で他愛もない会話をし、一緒に店の外に出た。
『銀さんとたくさん話せて楽しかったです。また一緒に呑んでくださいね。』
『おー!いつでもいいぞ〜。』
『…銀さん……私と柊の話聞いちゃいました?』
『…』
『他言無用でお願いしますね。今はまだ死ねないので』
『…なぁ、何か困った事があったら…俺に言ってくれよ。ほら、俺万事屋だしぃ?やるときはやる男だしぃ?』
『フフ、話せる時が来たら…その時はお願いしますね。それじゃ、おやすみなさい』