11話


ウルズは、地下室へ下りる階段まで来ていた。
その階段付近にも犠牲者の骸は転がっており、それは見るも無残な光景だった。
しかし、この周囲の犠牲者達は、先ほど調べた犠牲者達とは少し違っていた。

地下室にある武器庫を厳重管理するのは当然だが
地下にあるもうひとつの部屋も不自然なまでに厳重に管理されていた。

リズナが先に地下室へ下りていく。
彼女は扉の鍵を確認しているようだ。

「…凄い南京錠ね」

リズナが感心しながら言う。
そして一応ドアノブをがちゃがちゃと捻った。

「…一応扉にも鍵がついてるのね。凄いロック」

そう言うと彼女はウルズを確認した。

「…派手に壊しても問題ないかしら?」

「ああ」

「…その前に、声かけてみたほうがいいか…」

リズナがそう言って扉に声をかけようとした時だ。

「…さん」

どこからか、聞こえる、微風にも負けてしまいそうな小さな声。
しかしウルズの耳には確かに届いていた。

「この声は…!リチャードか…!?」

ウルズは辺りを見回す。
リズナもウルズの声に気がつき、階段を上ってきた。

「おにいちゃん、あそこ!」

リチャードを一番早く探し出したのはラヴィだった。
ウルズは急いでリチャードに駆け寄る。

リズナも彼を確認するが、
彼の腹部からは、大量の出血とともに、抉り出されたかのように内臓が飛びだしていた。
リズナは彼から目を逸らすように回りを確認する。

彼の周囲に横たわる骸たちもまた彼と同じだ。
腸を抉り出され、ちぎられ、部屋は真っ赤だ。
彼女は其の様子に、何か思ったのかラヴィにここに居るよう伝え別の部屋を確認しに行った。

「リチャード!しっかりするんだ!」

ウルズは僅かに意識が残るリチャードを抱きかかえた。
リチャードはウルズを確認すると、少し微笑み

「よ、よかった…ウルズさ…」

喋るたびに口から真っ赤な液体が飛び出した。

「喋るな、リチャード!」

ウルズがそう言うが、彼は構わず喋り続ける。

「ウルズさん、ここから…早く…逃げ…ゲホッ」

最後まで言う事はできずまた大量の赤い液体が口から流れる。
そんな痛々しい彼に、ウルズは喋るなと繰り返す。

リチャードはゆっくりとある場所を指差した。
ウルズはその方向を確認する。

−…あそこは…!

「ウルズさん、あそこは…決して入ってはいけません…。
ぐ…あァ…。いえ、それよりも早くコ…コから…逃げ…て…ください…」

意識が薄れゆくなかリチャードは必死に、伝えようとする。
あの場所の正体を。

「リチャード!!しっかりしろ!!」

「ウルズさん、す…みません…でした。
私は皆さんを守れなか…っ…どうか、あなたは…ご無…事…で…」

リチャードは最後にそう言ってうっすら涙を一粒流すと瞳を閉じたのだった。

「! リチャード!おい!リチャード!!」

彼は、もうその問いには答えることはない。
ウルズは、顔を手で覆った。

−…くそ…っっ!

そんなウルズに、ラヴィはゆっくりと近づく。

「おにいちゃん…」

その声は幼いながらに彼を心配する優しい声だった。
少し遅れてウルズは、ラヴィに返事をする。

「…ラヴィ…、心配させてすまない。大丈夫だよ」

ウルズがそう言うと、ラヴィは彼の背中に優しく抱きついた。
そしてラヴィも泣き出してしまう。
そんなラヴィを優しく抱き寄せ、頭をなでた。


そんなやり取りの最中、リズナが帰ってくると、壁に背もたれる。

「…14人」

ウルズは、ラヴィをあやしながら答えた。

「…死体の数か?」

「ええ。
それに外部から入ってきた形跡もない」

「まだ…犯人はこの教会の中…か」

そう言ってウルズは地下室を見やる。

「まだ確認していないのはあの地下室と武器庫だけ
ってことは居る場所も決まってるようなものね」

リズナはそう言うと、ハンドガンを手にした。
ウルズも立ち上がる。

「…ああ。間違いなく、あの場所に“何か”がいる」


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