3話


ウルズは、古びた病院の一階を探索していた。
正門が封鎖されていた為、裏門から内部へ入ったが、病院内は荒れており、
つい最近まで診察していた、という雰囲気ではなかった。

何かの原因で、閉院したのだろうか?
しかし、荒されたような室内を見る限り、とても穏やかな閉院というわけではなさそうだった。

ウルズは、ふと窓の外を見た。

もう辺りは薄暗い。
あと二時間もたてば、辺りは闇に包まれるだろう。
この街には、恐らくもう住民は居ない。
街には明かりが灯る事はないのだろう。
彼の瞳は、どんな暗闇でも鮮明に周りを見渡す事が出来るので、
明かりがなくても困る事はないし電気は通っているのだから、
必要なら自分で点ければ良いだけの話だが、
やはり誰かが明かりを灯してくれないというのは、なんだか寂しく感じる。


こんな事を思うなど、自分が完全に丸くなったのが痛いほど良く分かる。
誰も居ない街がこんなに寂しいものだったとは―――・・・・・


ところで、人の形を成すモノ達は、夜間はどういう行動を取るのだろうか。
生物学上的には、彼らの肉体は既に死んでいる。
死んでいると言う事は、自分の肉体を維持する為の睡眠は必要としないのだろう。
即ち、彼らは恐らく夜間も変わらず獲物を探して彷徨い続けるのだ。

幸いマシンナリー・チルドレンである彼も、睡眠は必要ない。
彼の体内にあるマシンセルも今は正常に機能しているため、肉体が傷ついても多少の傷ならば
マシンセルが自己修復する為肉体の体力を癒す為の休憩も要らない。

ただ、彼も一人の生き物として自己を確立しつつある為精神的なものを感じてしまう。
めったな事がないと精神的に疲れたりはしないのだが、この絶望的な状況にいては
そんな事はないとは言い切り難かった。


―僕にとって夜は何のデメリットもないが・・・

超人的な能力を誇るマシンナリー・チルドレンの彼でも、
相手が弱体化してくれるというのは好都合である。

ただ、彼らの肉体は死んでいるので、視覚で獲物を察知しているわけではないかもしれない。
しかし、聴覚はあるようなのだが・・・・

視覚ではないことも想定すると、相手も暗闇は関係ないと言う事になる。
視覚で察知しているのならば話は別なのだが。

今の段階では彼らは謎が多すぎる。

嗅覚も、異常に鋭いのか。
視覚も、異常に良いのか。
聴覚は一体どこまで発達しているのか。

だが、相手は基は人間のはずだ。
人間の身体が腐敗して、なんらの原因で動き回っているのだとすれば、
変貌後の知覚が人間離れすることなどないと思うが・・・・

自分の力が人間の何倍もあるため気付かなかったが、彼らの力は通常の人間より優れている気もする。
一番最初に襲ってきた女の力も、20代女性の腕力とは思えない程の強さだった。

本能だけで、動き回っているせいなのだろうか?
確かに、生き物は本能や、潜在的な何かが働くと普段は有り得ない力を発揮する生き物だが・・・・

ウルズは手術室を通りかかる。
手術室などに外部へ通じる無線機など置いてあるわけもないので無視しようとしたが、
手術室内部から、物音が響いた。
何かに足をぶつけたような音だ。

こんな所に人は居るわけはない。
この病院内にも、人の形を成すモノが潜んでいるのだろう。

彼らがこの厳重な扉を開けられるとは思えないし、無視すれば中に居る連中は無害なのだろうが
何らかの弾みで外に出てこられては厄介である。
ウルズが耳を済ませても、呻き声は聞こえない為居るとしても1,2体が良い所だろう。
1,2体ならば、殺すのに数分もかからない為、万が一に備えて始末する事を選んだ。



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