そんな顔を曇らせた少年に老婆は言う

「どうしたんだい?
食べないのかぇ?」

少年はじっと果物を見つめた

「・・・・」

「ほら、美味しいよ?
食べてごらん?」

「・・・・」

果物を薦めてもただ見るだけで
手に取る様子のない少年に
老婆は困った表情を浮かべたが
直ぐに老婆はにこりと笑った。
そしてベッドの隅に果物を置き、

「じゃあ、ここに置いて置くから。気が向いたら食べておくれ」

老婆はまたもや優しい笑顔を浮かべ
少年が居る部屋を
後にしようと、扉まで足を運ぶが、
ドアノブを握ったまま立ち止まった

「そうだ。
あんた名前はなんていうんだい?
それくらい教えておくれ?
名前が分からないとあんたじゃ困るからねぇ・・・」

そんな老婆の言葉に少年は

―…名前?
僕の名前を聞いて…
どうするつもりなんだ?

彼は理解ができなかった。

「私の名前はヨシマじゃよ。
あんたはなんていうんじゃ?」

―名前なんて、
ただの識別番号でしかない。
僕の名前は“1”だ。
創造主が識別用に
付けた番号・・・

ただの識別番号を
この女は何故知りたがる?

もう残り少ない僕の識別番号など
聞いても何の意味もないだろうに
彼は思わず口を開いてしまった。

「名前など意味の無いものだ。」

「意味がない?
どう言う事だい?」

「僕の名前など
識別番号でしかない。
そんなもの君が知った所で
何になるんだい?」

「識べ・・・?よくわからないねぇ・・・。
でもそのしきべ番号とやらは名前と同じ事なんじゃろ?
じゃあそれでいいじゃないか。
教えてくれんかねぇ?」

少年は、何故この女が自分の名前を知りたがるのか
全く理解が出来ない。

少年は少しでも早く体を休めたかった。
その為、老婆をあしらう為に答えた

「・・・・・イーグレット・ウルズだ」

「ウルズかい。
いい名前だ。
じゃあ今日はゆっくり休むんだよ」

そういうと老婆は笑顔で部屋を後にした。

「・・・・・良い名前?
何・・を言ってるんだ・・・・・?」

名前なんか
ただの識別番号でしかないのに。

ウルズはベッドから見える
窓から外の景色をちらりと見た

そこには広大な景色が広がっていた
荒れ果てたていても、
力強く人間達が生きていく事を
選んだ大地。
限りなく広く、
全ての生命を優しく見守る
青い空がそこには広がっている。

そんな世界を見つめながら
少年は心の中で呟いた

兄弟たちはどうしたのだろう

彼らに倒された後、死んだのか?



おかしいな。
さっきから僕は何を考えているんだ


僕らに死などない。
あるのは廃棄か、機能停止、
もしくは消去のみだ

なのに僕はさっきから…

老婆の自宅は、ドームの中でもとても高い丘にあった。
その丘から見える景色が美しく、空がとても近く見えた。
 
破棄も、消去も怖くない…はず…
でも・・・・

兄弟たちの事を考えれば
何故か胸の奥が痛む

この感情は…?
死ぬ事への恐怖?
それとも、
兄弟を失った事ヘの・・・?

彼はまたふと窓を見る。
その美しい景色は傷んだ自分の中の物さえも、
洗い流してくれる・・・
そんな気がしたから。

だが、1つだけ。
たった1つだけその景色からは異形物が移りこむ。


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