第16話 強さ≠価値

ここは格納庫だ。
ヴァルキュリアは関係者の立会いの下、シャドウに負わされた部分を修理していた。
本当ならば、S級の魔動機を本格的に修理する時は
専用の施設に送らなければならないのだが幸いにも今回は
魔動機開発協会代表の、玉露月牙がこの基地に偶然に訪れていた。

その為、魔動機開発代表者の1人である月牙の立会いの下修理が行われていた。

「アイカワ少尉、運が良いネ!
僕がいなかったら、コレ施設行きだったよ?」

「ええ、本当に助かります。玉露博士」

「博士なんてやめてヨ!
僕の事はゲッちゃんって呼んでくれていいんだよ?」

「…それで博士、どれくらい修理にかかりますか?」

「アレレ、無視?そーだねェ〜
猛スピードで頑張れば、3日くらいで大丈夫じゃないかな!」

「3日でお願いします」

「3日ってけっこーきついよ??」

「相手はS級2体です。S級の魔動機は多い方が良いです」

淡々と言うリズナに月牙は、少し苦笑気味に言う。

「うーん、っていうか疑問があるんだけどな。
あの程度の操縦者なら本気出せば君1人で何とかできたんじゃない?」

その鋭い質問にリズナは少し間をおいた。

「…彼らは少し様子がおかしかった。
シャドウも、シルフィーも本来の能力を完全に発揮していないようでした」

「うん。確かに!
S級同士が本気でやりあったらこの程度じゃ済まないハズだしネ!」

その軽い様子で答える月牙にリズナは、少し不信のまなざしを向ける。
そして質問した。

「何故シルフィーとシャドウは
本来のミスティックを使用しなかったのでしょう?
博士なら何か御分かりになるのでは?」

「ん〜〜〜〜。まあこれは仮説だけどネ!
君はあの2人どう思う?」

その質問にリズナは意味がわからないと言った様子だ。

「だから、戦闘中にあの2人に対して思った事はある?」

「思った事ですか…、そうですね…
あの2人には憎しみや憎悪…などの負の感情を強く感じました」

「ウン、それだヨ!
僕らが開発した公式S級魔動機の守護精霊にはね。
そう言った悪い感情に強く反応する精霊は契約に入れてないハズなんだよネ!」

「…でもシャドウは闇の魔動機では?
闇に属する精霊は基本的に負の感情に反応すると聞きますが…」

「ノンノン!
シャドウの守護精霊は始まりと混沌の神“カオス”だヨ!
混沌とは始まり、始まりとは混沌。
そして始まり全てに、意思とその強さを求める神なんだヨ!」

「は、はあ…?」

「カオスは、原初の神とも言われててネ!そんでもって…」

「あの…結論から教えて頂いて宜しいでしょうか…?」

「えー…これから良いところなのにー…
まあ、要するに“カオス”は始まりを愛するんだヨ。」

「始まりを…?」

「そだヨ!
アイカワ少尉は、何か新しい事を始めるときに
何か凄く考えたり、不安になったりしない?」

「…多少はあります。」

「だよネ!
人間みんなそうなんだヨ、みんな始まりに不安や期待を感じるんだ。
そして“カオス”は、新しく何かを始めようとするとても強い意志に反応する。
シャドウの操縦者はそんな風に、始まりに強く意思を持てる子だったのかなー?」

それを聞いた後、リズナは疑問に思った事を月牙に訊ねる。

「なら、彼は負の意思でシャドウに乗っているのでしょうか…」

「ノンノン!
確かに、意思に反応するって言ったケドね!
カオスは、貫く意思も欲する神なんだヨ!」

「貫く、意志…?」

「そうそう、要するに三日坊主はダメって事だヨ!」

その言葉に、リズナは更に意味がわからないと言った様子だ。
そんなリズナに、月牙は結論を言う

「まあ、ココマデはカオスの説明!
結論を言うと…、多分彼は正式な操縦者じゃないと思う」

「! それはどういう…?」

リズナは驚いた。
そんな事通常なら有り得ないのだ。
S級と呼ばれる、高位の精霊と契約を結んだ魔動機は
強大な力を精霊に借りる代わりに、
精霊が選ぶ操縦者でなければ動かす事は出来ないはずなのだ。

「それは僕にもまだわからない。
セルシリア側の技術なのか、それとも操縦者の力なのか…。
まだまだ研究課題は山盛りだネ!」

月牙はそう言うととても嬉しそうだった。
そんな彼を見てリズナはまた不信の眼差しをした後小さくため息をつくのだった。


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