第15話 月と影のワルツ
空は闇に覆われていた。
それは彼の憎悪が生んだ深い心の闇を表しているかのように。
その状態は、大地の病院からも見て取れた。
「兄ちゃん…あれ…」
「ん…?」
大地の兄、空が弟の指を差す先を確認した。
その先はとても暗く、見ている者を不安にさせる闇に覆われていた。
「あの辺は確か…?」
先程ニュースでやっていたセルシリアが侵攻してきた地域周辺だ。
おそらくあの辺りで戦闘が繰り広げられているのだろう。
「う…あぁ…」
後ろから大地の苦しむ声が聞こえてきた。
「大地!?」
頭を抑え、苦しむ弟の背中をさすり声をかける。
「大丈夫かい?!」
「声が…なんだよ、これ…!!」
その声は、低い男の声だ。
でもどこか壮大さを感じる落ち着いた声でもあった。
【…ハ、ナニヲ…メル…】
よくは聞こえない。
何を言っているのか聞き取れない。
「なんだよ、何が言いたいんだよ、お前!!」
苦しみながら誰かに何かを訴える弟に、兄はただ心配する事しかできなかった。
徐々に大きくはなるものの、言っている事は全く聞き取れない
その声は大地をずっと苦しめていた。
しかし、一瞬だけいつもとは違った声が聞こえる。
『助…けて…』
その声は確かに大地に届いていた。
「…え?」
「どうしたんだい、大地!?」
「…今誰かが助けてって…」
そんな、不可解な弟の言葉に空は、何もいう事はできなかった。
[56/110 ]
← →
Original Top
[しおりを挟む]