第23話 闇と光の間で

リズナは、目の前に広がる光景を唖然と見つめていた。
自分が、殺した大量の亡骸を見つめて、心なく佇む少女。

涙さえ流さない。
いや、流せなかった。

そして、また切り替わる映像。
それは雪原だった。

雪の降る寒い雪原を2人の人間が走っている。
それは、あの施設で彼女が最も信頼した男性と自分だった。

「ナオキ…」

リズナは思わず彼の名前を口にした。
ナオキに手を引かれ必死に、雪原を走りぬける小さなリズナ。

あともう少しだ。
後もう少しで連邦軍の基地だった。

だけど…

彼の背中に走る3つの銃弾。
あと少しだったのに、彼はその場に倒れこんだ。

真っ白な大地は彼の血で真っ赤に染まって。

感情も、感覚も封印していた彼女はなにが起こったか理解できなかった。
苦しそうに小さなリズナに、手を伸ばすナオキは最後まで笑っていた。

「さあ、走って。リズナ…。もう少し先に君のお父さんがいる…から…」

ナオキの手は小さなリズナの頬に触れた。

「さあ…。行くんだ。僕の事は気にしないで」

血を流しながら立ち上がるナオキは、銃を構えた。
研究所からの刺客に銃を撃つナオキ
しかし、負傷をした彼の銃撃などまともに当たるはずもなくて。

また1発彼の肩に銃が撃ちこまれた。

ナオキは、持ち堪え必死に小さなリズナに逃げるように言う。

そんな映像を、リズナは見ていた。

−何してるの…、何してるの…

ナオキが必死に抵抗するのに見ているだけの幼い自分。


あなたなら戦える力があったでしょう?
なのに何故戦わないの

遠くから、足音が聞こえた。
それは、ナオキが予め連絡していた連邦軍からの援軍だった。
大勢の援軍に、研究所からの刺客は、追う事を諦め撤退して行く。

ナオキはそれを確認すると、その場に倒れこみ、小さなリズナににこりと微笑んだ。

「よ…かった…。これでもう安心だね…。お…父さんにも会えるよ。リズナ…」

そう言って、小さなリズナの頭を優しく撫で終えると、彼の手はぱたりと地面に落ちて行った。
彼女が、全てを理解したのは、冷たく降り積もる雪と、生暖かい彼の血の上だった。

−ナオキ…

私はあの時何も出来なかった。
ナオキのために戦う事すら出来なかった

リズナは握りこぶしを作った。

−そうだ、私はあの頃何も出来なかった…。
ララも、カズキも、セイジも…助ける事が出来なかった…。
私のためにみんなみんな犠牲になったのに…っ!


そして、未だに流れる映像を見つめた。

−私は色々な人の犠牲の上に立ってる…
だから、こんな所で負けられない…。こんな所で死ねない…ッ!
私は、みんなの分も背負って生きるって決めたんだからッッ!!



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