『リズナ、それはダメだよ』
目の前で少女がそう言った。
リズナは思わずその声の主を見てしまった。
それは、あの研究施設で最も仲良くなった友達の1人だった。
−いけない…っ、ここから抜け出さなきゃ…!
そう思いつつも、彼女は少女を見てしまう。
『そうだよ、悪戯は良くないぞ』
少女の隣りから現れる2人の少年。
そして玩具を取り上げられた愚図りだす小さな女の子が見える。
それは、幼いリズナ本人だった。
泣き出す小さなリズナを、優しく抱き抱える一番年上の男の子。
『ほらほら、抱っこしてあげるから泣き止もうね』
とても仲良かった3人の友達。
彼らと過ごした日々が次々彼女の視界を横切る。
−ダメだ…このままじゃ…!
何とか抜け出そうと試みるが、映像は止まらない。
『カズキ、ドコ行ったのー…?』
小さなリズナが、そう言葉を口にしていた。
カズキと呼ばれる少年はもうドコにも居ない。
『ねぇ、セイジは?セイジはどこ?』
次々と居なくなる友達。
ララ達だけじゃない。施設の子供全員が居なくなった。
しかし幼かったリズナにはそれがどうしてか理解できなかった。
しかし今なら分かる。いや、今だからこそ分かるその理由。
−う…っ、ダメ…、見たくない…ッ
『ねぇ、みんなどこ?どこなの?』
独りぼっちになったしまった理由も分からなかったあの頃。
ララも、カズキも、セイジも、居なくなった訳を知らずに過ごしていたあの時。
私は何で…、生きてるんだろう。
私は何で、何も知らなかったんだろう。
突然暗転する視界。
精神攻撃が終わったのかとホッとするリズナの前に現れたのは、兵器として大量の殺戮を繰り広げる自分の姿だった。
私は、何をしてるんだろう。
私は、どうしてこんな事してるんだろう。
戦慄のヘカテーと呼ばれたあの時の記憶が彼女の脳裏にそんな事を思わせる。
リズナは思わず顔を背けた。
大量の亡骸が散らばるその場所にたった1人の少女が居た。
“戦慄のヘカテー”
まさにその名の通り、戦場を戦慄させた魔女が其の場に立っていた。
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