今日は、四季の会議の日だった。
南部の城には観客が大勢集まっていた。
その中には、月灯とクォヴレーもおり、四季の会議が始まるのを待っていた。
「凄い人だねー…、はぐれたら一貫の終わりかも」
「そこまででは、ないと思うがはぐれない様にな」
「う、うん…」
そんな会話をしながら2人は観客席につき四季の会議が始まるのを待っていた。
まず最初に登場したのは、南部の国の王と女王、そしてその養女である冬の巫女だった。
その次に、現在この国に滞在している、大地の揺り篭の国の女王と、夏の巫女
その直ぐ後に隣の国の女王である春の巫女が入場して来た。
巫女が3人揃うと、会場からは巫女や王族に送る声援などが響き渡る。
その声に会議に出席する人物が全員返事を返していた。
3人の巫女が揃い会議の時間は、既に5分過ぎていた。
しかし会議はまだ始まってすら居ないのだ。
なぜなら1人の巫女がまた到着して居ないからだった
「…秋の子はどうしたのかしらん。いつもなら代理が時間どおりに来てるはずなのに、代理すら来ないなんて」
エクセレンがそう言うと、キョウスケが
「もう10分待って来なければ、会議を開始する」
「皆待ってるし、仕方ないわねぇ…」
そんな会話に、春の巫女であるオウカが言う
「数日前に、東の山へ伝書鳩を飛ばしたのですが、返事は来ませんでした。その事と何か関係があるのかしら」
「そぉね〜…。そうだ、あの人達に聞いてみる〜?」
「あの人達…、護衛隊長さんと研究員のお姉さんの事ですの?」
アルフィミィがそうエクセレンに尋ねると、キョウスケが
「あの2人なら何か知ってるかもしれんな…。呼んで来るか」
そう言ってキョウスケが立ち上がった瞬間だった。
会場の扉が開き、3人の人間が会場へ入場して来た。
先頭に立つのは、鮮やかな着物に身を包んだ小柄な少女で、顔を隠している。後の2人がそんな人の護衛だろうか。
「お待たせし申し訳ありません、皆様」
遅れて登場したその人物は、謝罪して用意された自らの席に着いた。
鮮やかな着物に身を包んだ少女は、いつも会議へ出席する代理とは違っていた。
そんな彼女に、春の巫女であるオウカが言う。
「…今回は来て下さったのですね、秋の巫女」
「はい。もうそろそろ代理では話にならないと思いましたので」
秋の巫女は、そう言って、巫女の証拠である宝具を皆に見せた。
それは虹色に輝く扇だった。
「皆様、初めまして。私が秋の巫女…、藍川莉途菜と申します」
彼女の自己紹介に、会場はざわめいた。
会場からは罵声も飛び出していた。それは、悪魔や鬼と罵るものだったが、秋の巫女は全く気にもしない様子で会議に参加している。
会場は彼女の登場で騒がしくなり、月灯の周りでも彼女へ対する罵声が飛び交っていた
「クォヴレー…、あの人が…」
「そうらしいな。それにしても、凄い人気だな…」
「こ、これ人気じゃないと思うよ…!?」
クォヴレーの天然に、そう突っ込む月灯。
周りは彼女への罵声で、一杯で月灯はなんだか怖くなってしまう。
(あの人、どうしてこんなに嫌われてるんだろう、やっぱりヤンロンさん達が言っていたのが理由…?)
会場のざわめきにキョウスケは一回溜息を付くと隣に居た、部下らしき人に耳打ちすると彼は頷き。
「皆様、ご静粛に!!これより四季の会議を開催したいと思います!」
そう言って、4人の巫女の前に立ち何やら空高く掲げて見せた。
そんな合図に、巫女4人は立ち上がり、自らが守護する宝具を一斉に取り出す。
桜の君である、オウカは、 薙刀の形をする春の宝具『桜姫』を。
東雲草の君である、イルイは、鏡の形をした夏の宝具『東雲の鏡』を。
竜胆の君、リズナは、扇の形をした秋の宝具『苦担の扇』を。
椿の君、アルフィミィは、刀の形をした冬の宝具『椿姫』を。
それぞれ観客や関係者達に見せた。
その行為は、宝具が無事である事、又巫女本人である事を確認する為である。
全員に見せ終わると宝具は大事に仕舞われ、四季の会議が始まったのである。
今回の内容は、迫り来る大災厄の事だった。
「秋の巫女、前回代理が言っていた事はあなたの御意志なのですか?」
オウカがそう秋の巫女、リズナに尋ねた。
すると秋の巫女である彼女は、顔を見せずこう言う。
「勿論です。私は、このまま人と人ならざる物達との中立を保ち続けるつもりです」
「物の怪達は、今も尚人を食らい、私達を危険に晒して居るのですよ。
もう犠牲者の数は数え切れません!何故、そこまでして物の怪達の肩を持つのですか?」
オウカの鋭い質問に、観客達からも彼女の意見に同意する歓声が上がった。
しかし秋の巫女である彼女は、オウカや観客の声も聞かずこう答えた
「彼らも生きているからです、生きていくが為の行為、私達も家畜をそのように殺めているでしょう?」
「そのような…!それでは、物の怪が生きる為に人の犠牲を払っても良いというのですか!?」
「そうとは言っておりません。しかし、一説によれば宝具を使えば物の怪が滅ぶとも言われているのは貴女もご存知でしょう?」
「物の怪は、我々人の敵です。人を食らい、浚い、殺す、危険な物達です。そのような物が滅べば、人は何も恐れず暮らす事ができます。
あなたは、そうは思わないのですか?このまま人々が不安や恐怖を募らせながら生きて行けばよいと申すのですか?秋の巫女!」
「春の巫女、貴女こそ忘れているのではないですか?物の怪とて、全てが悪い訳ではないのです。
宝具を使えば、何も悪い事をせず密かに暮らす物の怪まで殺める事になるのですよ」
春と秋の巫女の言い合いは続いた。
それを黙って聞く2人の巫女と関係者達。
「…冬の巫女、夏の巫女、貴女方の考えをお聞かせ下さい」
オウカは、リズナとの言い合いを一旦区切り今まで黙っていた2人に意見を尋ねた。
イルイは、隣に居たソフィアの後ろに隠れながら答える。
「…私は…、まだ分からないです…。どっちが正しいのか…、でもみんなに危険が及ぶのは嫌…」
アルフィミィも、
「物の怪さん達が危ないのは同意ですの。でも、秋の巫女の言う事にも一理あるかなとか思ってしまいましたの」
オウカはそれを聞くと、秋の巫女リズナに話を戻した。
「…このままでは、災厄は防ぎきれません…。私達はなんとかしなければならないのです。
巫女が一致団結しなければこの先には進めない」
「…先ほども言った通り、災厄の詳細がこれ以上分からないなら、私は物の怪との中立を保ち続けます」
リズナはそう言って席を立ち上がった。
そんな彼女に、春の巫女オウカは
「お待ちなさい!まだ話は終わっておりません!」
しかし彼女は、オウカの制止も無視しそのまま護衛を引きつれ退場してしまう。
そんな秋の巫女に、残された巫女や会場の人々も無言になってしまった。
「あららん。相変わらずなのねん」
少しの無言の間を破ったのはエクセレンだった。
「…秋の巫女さんは、どうしても中立は保ち続けるつもりですの」
「そのようだな…。さて、どうするか」
アルフィミィが、言い、それに続いてキョウスケが言った。
オウカはあれきり黙りこんだままでずっと何かを考えているようだった。
イルイとソフィアも、沈黙を続けている。
「でも、イルイちゃんもミィちゃんも意見が割れてたわよ〜?まず私達の意見をまとめた方がいんじゃない?」
エクセレンの発言にキョウスケは頷いた。
「私は、物の怪を掃討するためにも時が来れば宝具を開放する事を希望します」
オウカが、そう意見を述べるとアルフィミィは
「私は、少しお時間がほしいですの。」
イルイは、ソフィアに耳打ちをしていた。
そしてイルイの変わりにソフィアが彼女の考えと意見を述べる。
「私達も、少し時間を頂けませんか?考えたい事があるそうなので…」
そんな彼女らにキョウスケが今回の会議の意見をまとめた。
「了解した。少し時間を置き改めて緊急招集する事とする。それで構いませんか?」
「ええ、構いません。今は会議の時期を正確に守っていられるほど時間に余裕はありません」
オウカがキョウスケの意見に同意する。
ソフィアも、同じく巫女達全員が、その意見に賛成と言う形になった。
秋の巫女だけは先に帰ってしまったので、意見に同意したか分からないが今回の会議は皆少し時間が欲しいと言う事に落ち着いた。
そして、少しの時間を置き改めて緊急会議が開かれる事となったのだった
「今回はあんまり、良い結果にならなかったみたいだね…」
月灯がそう言うと、クォヴレーが
「秋の巫女の考え…悪い考え方ではないな…。しかし…」
「しかし、何…??」
「とても難しい考え方と言う事だ」
「そうだよね…。妖怪さんや鬼さんとの中立なんて難しいよね…」
「ああ、彼らは人間を襲い命を奪っている。そんな連中相手に、中立を保つなど普通ならば容易ではない」
そんな会話をしながら帰宅している時だった。
何やら下町の方で大きな物音と、悲鳴のような声が聞こえてきた。
「え?何この音…!?」
月灯が驚くと、クォヴレーは
「町の方からだな、何か合ったのか…?」
大きな音は、絶え間なく聞こえ続け、ついに町から煙が上がったのが確認できた。
クォヴレーはそれを見るやいなや走り出す。
月灯もそんな彼に急いで付いて行くのだった。
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Y.苦担の巫女