四季の会議が近くになるに連れ町は観光客がどんどんと増えて
南部の国の下町はいつもより賑わっていった。
「今日も一段と人が多いねー。こんな郊外なのに」
ミオが『何でも屋 鋼』の2階から外を見下ろして言う。
それ聞いたリューネも
「ほんとだよね。日に日に増えていくのがわかる位」
そんな言葉を聴いたミオは、理由を知りたくなり、月灯に尋ねる。
「それよりさ、なんか下騒がしくない?月灯知ってる?」
「詳しくは知らないけど…お客さんが来るとかなんとか…?」
「えー、客が来るくらいでこんな騒がしくするかなー。
あ、ひょっとして凄いお客さんだったり?」
「どうなんだろ…?
でも、朝からダイテツさんもテツヤさんも忙しそうだったかも」
「ふーん、じゃあ下に確認しに行ってみよー♪」
そんなノリノリなミオに、リューネも椅子から立ち上がり、月灯に言う
「そうだね。
そんな忙しいならあたしらで手伝える事あるかもしれないし、月灯行ってみよっか」
下の階に行くとどうやら既にお客が到着していたようで、ダイテツとテツヤはなにやら敬語で話していた。
月灯もそれを確認した後、2人が敬語で話す相手を確認した。
「そんなに畏まらずに…普通で構いませんので…」
そう優しく言ったのは、綺麗なドレスに身を包んだ女の人だ。
隣には、ちょっと堅そうで無口そうな男の人と、その後ろに隠れた女の子が見えた。
そんな訳有りそうな3人の後ろから、ゾロゾロやってくる集団が居た。
なんか雰囲気はこの何でも屋鋼の人達に似ている感じがする。
「陛下、ほかの作業を済ませて参しました」
そう言ったのは、集団の先頭に居るとても優しそうで、若い女の人だ。
「レフィーナさん、ありがとうございます」
そう言って一礼するソフィアに、レフィーナは慌てた様子だった。
そんな様子に近くに居たマサキにこの状況を聞いてみた。
「マサキさん、あの方達って?」
「なんかどっかの女王様ご一行と、それを護衛してきた外国の人らしいぜ」
軽くそう言うマサキに、ヤンロンが言う。
「マサキ軽い口を叩くな。
あの方々は、揺り篭の国の女王陛下とその姫君だぞ、もっと敬語を使ったらどうだ?」
「べっつにいいじゃねえか、直接喋ってるわけじゃねえんだし」
「お前は、直接喋っても敬語など使わんだろう」
そんな会話を微笑ましく見ていた月灯は、前に聞いた話を思い出し
「あれ、そういえば揺り篭の国のお姫様って…」
「覚えていたか、そうあの方が『夏の巫女であり、東雲草の君と呼ばれるイルイ王女』だ。
四季の会議の為に、南部の国を訪問されたらしい」
「でも、なんでこの何でも屋に?ここ、宿屋さんではないですよね…?」
「『何でも屋 鋼』は揺り篭の国の『ギルド ヒリュウ』とは、同盟関係にあるからな。
南部の国へ滞在中は、ヒリュウと協力して女王陛下と王女の護衛を請け負うそうだ」
「じゃあ、あそこに居る大勢の人が『ギルド ヒリュウ』の方なんですね!
ヒリュウの方もこちらに滞在するなら、お世話になることもあるかも」
そう言うと月灯は、ギルド ヒリュウがミーティングを終えくつろぎ始めたところに話しかけた。
「あ、あの〜…」
「あぁん?なんだ、てめぇ?」
「ちょ、ちょっとカチーナ先輩…!す、すみません…」
月灯は、そんな2人にちょっとびっくりするがぺこりとお辞儀して自己紹介をしてみせる。
「あの、葵月灯です。今はこの『何でも屋 鋼』で雑用係をしてます!宜しくお願いします…!」
礼儀正しく自己紹介をした月灯。
そんな彼女をカチーナはどうやら気に入ってくれたらしく
「雑用係か、いいじゃねぇか。あたしはカチーナ!こっちは部下のラッセルだ」
「絶対、それ何か考えてますよね…、先輩。本当、すみません」
「細かい事気にすんじゃねぇよ。ほら、タスク、レオナも挨拶しときな!」
そう言って、カチーナが向こうでレフィーナと何やら話していた2人を呼び、
彼らと話していたレフィーナもカチーナの元へ来る形になった。
「お、可愛い子!俺は、タスクよろしくな!」
そんな軽いノリのタスクを、きっつい目つきで睨む隣の女の人。
その鋭い視線に気付いたのか、タスクは急いで「レオナちゃんが1番だって!」と付け足していた。
「ごめんなさい、こんな人達だけど根は良い人だから、気を悪くしないで。
私は、レオナ・ガーシュタイン、今後お世話になるわ」
「全くお2人は相変わらずなんですね、私はレフィーナ・エンフィールドです。
このギルドのマスターをしています。今後とも宜しくお願いしますね」
「はい、ぜひとも今後宜しくお願いします!」
月灯は、そう言って再度お辞儀すると、少し離れた場所でお茶をしている3人をちらりと確認した。
その様子にレフィーナが気付いたようで
「どうかなさいました?」
「あ、えっと、向こうに、いらっしゃる…女王陛下様たちにも挨拶した方が良いとは思うんですけど…
なんか女王様に気安く話しかけてもいいのかなーって思って…」
「ふふ、大丈夫ですよ。ソフィアさんは私達にも平等の立場で接してくださる方ですから」
「そ、そうなんですかっ、良い女王様なんですね!」
「ええ、ですからご挨拶しても問題ないと思いますよ」
「はいっ、ありがとうございます、行ってきます!」
月灯は、レフィーナに挨拶してソフィア達の居るところに行き勇気を出して話しかけた。
「あ、あの…す、すみません」
その声に紅茶を飲んでいたソフィアが真っ先に気付き優しく微笑んでくれた。
「どうしました?」
「あの、わ、わたしは葵月灯と申します…、今後とも宜しくお願いします…!」
月灯は思いっきり頭を深く下げる、それはもう不自然なほどに。
その様子をクスっと優しく笑ったソフィアは
「そんなに畏まらないで下さい。私たちは同じ人間です。皆さんと同じように接してくださって構いません」
「え、でも…いいんですか…?」
「はい、私もそうして下さった方が助かるのではなく、嬉しいのです」
「は、はい、わかりました!ソフィアさん…あと、イルイ姫も宜しくお願いします!」
そう言って、イルイの方に話しかけると彼女は男の人の後ろに隠れてしまった。
男の人はそんなイルイに
「挨拶しなければ、相手が困ってしまうぞ」
と一言アドバイスをしていた。
男の人に挨拶を貰ったイルイは、彼に微笑み月灯に挨拶をする。
「イルイ、です…。宜しくお願いします…」
「あ、よろしくお願いします、…あとそちらの方は王様…ですか?」
イルイに挨拶をした後、先程からイルイを守るようにして立っている男の人に尋ねる。
すると彼
「いや、俺は王ではない。俺は、ゼンガー・ゾンボルト。ソフィアとイルイを守る盾を勤めている」
「ええと…親衛さんって事ですか?」
「ああ、そうだ」
「なるほど、だからイルイ姫はずっとあなたの傍に居るんですね!」
月灯がそう言うと、イルイは恥かしそうに彼の後ろに隠れてしまった。
そんな様子を微笑ましく見ているソフィアとゼンガー。
この3人、とても仲が良いんだ…。良いな、こう言う雰囲気…。
私も憧れちゃうなこう言う雰囲気って。
そこは、桜が美しく花開く春のような場所だった。
そんな暖かな場所の中心である女性が側近の老婆と会話している。
「秋の巫女は、やはり来ないおつもりなのですか?」
「それは、まだ分かりませぬ…
東の山の陰陽師達に、伝書鳩を飛ばして連絡を待っておりますが…、一向に連絡はなく…」
「…もう災厄は間近に迫っているのです。もはや代理では、話にならないというのに…」
そう言って、桃色の華やかな着物に身を包む女性は東の方にある山を見つめ
「…東の山へ直接行けば、竜胆の君について少しは理解できるのかしら…」
「秋の巫女が、四季の会議に出席さえすれば問題はありませぬが…
今回も来ないのであれば東の山へ行ってみる価値はあるかもしれませぬな…」
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V.海の向こうの楽園より