それから、また数日が過ぎた。
戦況は悪化の一途を辿るばかりだった。

そして揺り篭の中でも、時は着々と迫っていた。

「…イーグレット博士」

「ウルズのデータを拝見しました…」

「…それで何が言いたい?」

そんな会話がアースクレイドルの研究室から響く。
その会話は幼い少年の耳に届いていた。
少年は眠たい目を擦りベッドから起き上がる。

そうっと、誰にも気づかれぬように。

研究室に近づくにつれ、声は徐々に鮮明になった。
ブロンゾ28号から作られたとか、役割だとか、性能だとか、
そんな言葉ばかりが彼の耳に入ってくるが幼い少年に、全ては理解できない。

そしてそうっと、研究室の扉を開けた瞬間だった。
彼の目と耳に飛び込んできた言葉、映像は…

彼が一番大好きな人間の女性と、
彼の親と教えられている男性が何か言い合いをしている場面だった

「では、イーグレット博士は…
あの子をただの道具としてしか…見て居ないのですか…?」

「ああ。1号はただの道具だ。俺達が生き延びる為のな。
よりよく生きる為に、道具を改良し、便利にしていく…。それは普通の事のはずだが?」

「しかし…あの子は感情があり、今を生きているのです…!」

「1号の感情?そんなものは作りものに過ぎん。変えたくなれば好きなように作り替えられるのだぞ?
最も1号でさえ、作り物だよ。変えたくなれば1から作り直せば良いだけの話だ」

「イーグレット博士は…ウルズに何の感情もお持ちではないのですか…?」

「ああ、ただの道具に何の感情を持つ必要がある?」

「…
では、質問を変えます。何の為にウルズを作ったのですか…?」

「“俺”の為だ。俺にはやり遂げねばならぬ事がある。その為には駒が必要だった。それだけだ」

「…ならばお願いです、博士。
ウルズをこのまま普通に生かし、新しい駒を別にお造りになってください…」

「それはできんな。今のこの状況でそんな時間の猶予があるわけがないだろう?
ウルズの調整は予定通り行う。それ以上話すことはない。もう下がれ」

そう冷たく言うとイーグレットは研究室の奥へ消えていった。
彼が消えた後、悔しそうにその場に立つくす女性は、
悔しくて悔しくて、どうしようもできなくてその場で涙を流した。


そんな女性の姿をドア越しに見ている幼い少年は
瞳から大量の涙を流す女性をじっと見つめていた。


幼いながら、2人の会話が

なんとなく分かった。

それは恐らく人離れした知能のおかげだろう。


−ぼくは どうして うまれたの?


自分にそんな問いかけをしただろうか。


−ぼくは なんのために ここにいるの?


それともこうだっただろうか。


僕はただの道具。ただの駒。
ブロンゾ28号って人の遺伝子によって生まれた

人間に使役されるだけの人形。

こんな思いをするなら生まれたくはなかった
作って欲しいなんて頼んでない。

−ねぇ…?
誰でも良い、教えて。
僕は…ここに生きている意味あるの…?


一番大好きな人の涙を見ながら幼い少年は…




ますます激しくなる地球の抗争状態に
幼い少年もようやく自分の置かれた状況を理解し始めた。

そして口数を閉ざしていく幼き人形は、ルクスに話しかけられても
次第に笑わなくなっていった。

「ウルズ、どうしたの?具合悪い?」

ウルズは小さく首を振る。

ルクスが読んでくれていた絵本…昔はとても楽しかったのに。

今は…
全然楽しくない。


この絵本は人の子供が楽しく生きていけるように。笑っていられるように。
そういう目的のために作られた本だ。

でも僕の笑顔は…?

あの時話していた言葉達が彼の心を抉る。

目的…僕の…僕が作られた…目的…

役割って何…?
パパの…やりたいことって…?


彼の瞳に、涙が潤んだ。
その様子にルクスが気がついた。

「ウルズ!?ど、どうしたの?」

その問いにも彼は首を横に振る。

もう決して…この人は泣かせない。

僕に…
笑顔を教えてくれたこの人は… もう二度と…



−知っているかい?
何故僕らが、人間を。ブロンゾ28号を。
憎悪し、嫌悪し、抹消しようとするのか

それは、全ての始まりである、僕がそう願っているから…


心に雨は降り続く END

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