揺り篭の前に一人女性が立っていた。
女性はカードをリーダーに通す。
Error…
何度も何度も繰り返すが、同じ文字が出て来るだけだ。
「…やっぱりこのカードじゃもう使えないのね…」
そのカードにはDCの文字。
アースクレイドルはもうDCの物ではない為カードが使用できなくなっていたのだ。
仕方なく内部連絡用の電話機を手に取った。
電話をしばらく鳴らすと内部に連絡が繋がった。
「あの…もしもし…」
「…その声は、ルクス博士でしょうか?」
電話の先から、男の声が響いた。
「えっと、その声はゼンガー・ゾンボルト少佐…?」
「ああ、しかし何故君がここへ…?」
「あ…、あの、私もDCをやめて…ソフィアさんの計画に参加を…!」
その言葉にゼンガーは少し驚くも優しさに満ちた声でこう言う。
「ありがとう…きっと、ソフィアも喜ぶ」
そう言って彼はアースクレイドルの内部から扉を開いた。
そして内部へルクスを招き入れ彼女を出迎えた。
アースクレイドルの内部には、数十機の起動兵器があった。
それはかつてDCが防衛用においていた起動兵器だ。
しかし今は操縦者はおらず、この時点で戦闘が出来るのは
軍事責任者としてここに残っているゼンガー・ゾンボルトのグルンガスト参式のみだった。
そんな誰も使う事の出来ない起動兵器はルクスの心に影を生んだ。
彼女がアースクレイドルに舞い戻ってきた理由はただ一つだ。
幼い子供の形をした人形の行く末を最後まで見届けるためだ
「少佐…。この起動兵器は今後誰かが使用するのですか…?」
その問いにゼンガーはこう答えた。
「俺は、自立回路を搭載する予定でいる」
『俺は』という事は、それはゼンガーの個人の考えである事を意味した。
おそらく、別の人間…、アースクレイドルの管理責任を請け負っている『誰か』の考えは別なのだろう
それはルクスやゼンガー、他の人間にすらもどういう意味かわかっていた。
ルクスはそのアースクレイドルの内部事情に何も言う事は出来なかった。
今のこの『いつ滅ぶかも分からない絶望』の中でそれはどうする事もできない事だから。
誰かが戦わなければ、この揺り篭も、その中で保存する種も。
全て途絶えてしまうのだから…
「…少佐…あの…」
「分かっている、こっちだ」
「あーーーっっ、るくすーっっ」
幼い少年は嬉しそうだった。
満面の笑みで暫く会えなかった女性に抱きついた。
女性はそんな幼い子供を優しく抱きしめる。
「ごめんね。ウルズ」
「るくす、るくす、何処行ってたの?」
「ちょっと、お家に帰ってたの」
「おうち?ぱぱやままが居るところ?」
「ええ、そうよ」
ウルズは、絶えず笑顔だった。
しかしそんな笑顔は揺り篭の中に居る大人たちには眩しすぎた。
揺り篭の中に居る大人たちは全員が分かっていた。
この笑顔はやがて、『消える』と。
死の匂いが常に漂うこの時代では、ほとんどの大人達は諦めていた。
それはソフィアも同様で、この時代で、希望を、勝利を、
掴み取る事を諦めたからこそ
この揺り篭が存在すると言っていっても加減ではない。
−…ウルズ…
揺り篭に集う大人達の胸の奥には、
それぞれの思いや思想が漂い、渦巻き常に不穏な空気を放っていた。
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