彼女は、今故郷へ帰るための電車を待っていた。
そんな中で思い出すのはたった一時の時間共に過ごした幼い少年の事だ。

ただ無垢に、ただ純粋に。
幼い少年は全てが始めてだった。

−私は彼に、何を教えてあげれただろう

数ヵ月後には、また元の人形に戻ると知っても
普通の子供として接してそれで良かったのだろうか

人形に戻れば、そんな記憶一欠けらも残らないのに。

どうせ人形に戻るならば、最初から兵器として。
道具として、人形として接すればよかったのかもしれない…。


きっと、そうしていたなら
あんなに優しい笑顔で笑うあの子はきっと…








「イーグレット博士…。」

「何かね、ネート博士」

「あの子の事なのですが…」

「1号の事か?」

「…はい。あの子はいつ、育成カプセルにお戻し?」

「そろそろだ。
俺のほうもチルドレンを量産する準備がもう直ぐできるからな」

「そうですか…」

申し訳なさそうにそう言うソフィアに、イーグレットは言う。

「何故、そのような顔をする?」

「…あの子の記憶はすべて消去するのでしょう?」

「無論だ。クレイドル管理に不必要な事は全て消去する」

イーグレットの即答にソフィアは何も言う事は出来なかった。


ある部屋では、イーグレットの助手として
クレイドルの完成までここに残る事になった女性がウルズの面倒を見ていた。

「まりあ、るくすは?」

「ルクス博士はね。DCの有望な科学者だから…、違うところに行ったのよ」

「ゆうぼう?」

「難しかったか…。そうね、大切ってことよ」

「大切??まりあはー?」

「私は元々フリーなの」

「ふりー??」

「自由ってこと」

「むずかしい…」

ウルズはそう言って頭を抱えて見せた。
そんな様子にマリアは

「大きくなればわかるわよ。…大きくなれば」

そう言って少し顔を曇らせた。
そんなマリアにウルズは意味が分からずきょとんとしている。

−…この子は大きくなったら人形に戻ってしまうのよね。


私は自分の為に。
出来ることを精一杯やってるだけだ。

今やってることだって例外じゃない。
こんな小さい子の、成長無理矢理止めたり、無理矢理成長させたり。

多くの命の為に、少ない命を犠牲にする。

きっと一番手っ取り早い方法なんだろうけど、やっぱ心は痛むよ…。




人造人間だって、普通の方法で製作したら結構の時間がかかる。
この子だって、もっと普通の人造人間だったら…

この子は、イーグレット・フェフによって生み出された。
偶然異星人との接触で発見された謎の金属細胞の発見により
ネート博士が、自立型金属細胞を開発。
それは、まだ実験段階で、本格的に使用するにはまだまだ心許ないものだった。

この技術はもともとエアロゲイターのものだし、当然だ。
エアロゲイターと、我々は今戦争の真っ最中で、彼らの技術は完全に把握し切ていない。

けれど、DCは無用な混乱を招かないように、この手に入れたものと、この技術は世間には公表しなかった。
…というのは、お偉いさんの綺麗な言い訳。
本当はきっとこの技術を独占したかった…これが一番の理由なのだろう。
でも、ネート博士はそれを良しとせず、それらに関わるデータ全てを持って深い地底の底で眠りに付く気で居る。
だからこの技術が使われているのはここアースクレイドルの内だけだ。


そして私の前で、無邪気で笑顔で笑うこの子
この子は生まれてからまだ、ほんの数ヶ月しかたってない。
生まれて直ぐに、彼は体内のマシンセルを活性化させられ、
マシンセルの自己増殖、自己進化の応用で一月半で人間で言う5歳児まで成長させられている。

そしてもう直ぐ彼は、マシンセルを活性化させる装置に入れられ実用化できる年齢まで引き上げられる。

この子が、実用化すると同時に彼のデータから他の子供が量産されるだろう。
そしてそれと同時にこの子は、人間に使役される人形へと戻るのだ。

この子の、笑顔はそこで途切れる。
もう二度とこんな風に眩しく、優しく、無垢で、純粋に笑う事はないだろう。

−だから言ったじゃないですか、先輩…。この子に笑顔は教えちゃだめだって…

マリアの瞳から一粒の雫が落ちた。



全てはここから始まった END

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