T.全ては此処から始まった
「ほら、笑って…?
あなたが笑ってくれないと、私眠れないでしょう?」
それは、僕が生まれて間もない頃の話だ。
僕は全ての基盤だった。
だから、初めの一人として、人工子宮の内で胎児まで育てられ
それから3年間普通の子供として生きる事を強いられた。
それは、僕らの創造主が始めの一人である僕に人の負の部分を植え付けるためだ。
でも僕が、数ヶ月の間普通の子供として生活した中で
唯一覚えたのは
『 』
だけだった。
僕は何故生まれ、
何故生きている?
僕はどうして、ここに居て
僕はどこへ行く?
僕は、この世界で何を求める?
男は目の前でなにやらモニターを見て呟く科学者に話しかける。
「イーグレット博士、1号の様子は?」
「順調だ。人間達の体調や精神状態を覚えさせる為に今は普通の子供として生活させている」
「なるほど、これからアースクレイドルを彼らに管理させるのなら
人間のことを少しでも知っていたほうが便利だからな」
「ああ。人の心はすぐ壊れる。
壊れた心は他人の精神まで侵食するからな。
それを覚えさせ、要らないモノと要るモノのの区別をつけられるようにする。」
フェフはそう言って人間を小ばかにすると、
彼の目の前に居る男はそれを良く思わなかったようで
「…それで1号は?」
フェフは男に、1号の居場所を教えた。
「これどうやるの?」
そこには幼い男の子がいた。
しかしその子は普通の子供とは違っていた。
肌の色は人間のその色とは全く別の色をしている。
「これは、こう」
「あー、ほんとだーっ、凄い」
でも、その無邪気な笑顔は人間の男の子と全く同じだった。
幼い男の子に色々教えている女性は、とても穏やかな表情でそれをみていた。
そんな2人の笑い声の中に一人の女性の声が入ってきた。
「ルクス博士。ウルズのご様子は?」
「あら、マリアちゃん。とても元気よ。ほら、見て」
ルクスはそう言ってウルズが書いたと思われる絵を見せた。
「…それは?」
「ウルズが描いたの。とても上手いでしょう?」
「…はい。しかし、ルクス博士…」
マリアはその絵を見て、顔を曇らせた。
そしてルクスの手を引きウルズの耳が届かない場所へ連れ出した。
「ルクス博士、イーグレット博士のお言葉をお忘れですか?」
「覚えているわ。あれでしょう?あまり、余計な事は教えるなって言う」
「はい。そうです。お絵かきなんて、アースクレイドルの管理に必要ないですよ。
ばれたらまた嫌味言われちゃいますよ?」
「けれど、あの子は人間にしてまだ5歳なのよ。
5歳の男の子ならお絵かきは普通ではなくて?」
「そうですが…それは調整で無理矢理成長を遅らせているからです」
「そうだけど…」
「1号には、数年だけ人間と暮らさせアースクレイドル管理に必要な知識を覚えさせる。
ルクス博士の任務は、必要な知識をウルズに教える事と余計な事を覚えないように監視する事じゃないですか!」
マリアが、おっとりとしながら話をするルクスにそう説明するが
そんな説明もむなしくルクスはにこりと笑った。
「でも、5歳だし…
やりたいことさせてあげた方があの子にとっても幸せなんじゃないかしら?」
「いいですか!ルクス博士っ!
アースクレイドルの完成と、地球への脅威は着実に迫っているんですよ。
でも、アースクレイドルを管理する為のNPC…「マシンナリー・チルドレン」がまだ未完成なんです
で、そこに居るのがそのマシンナリー・チルドレン全ての基盤、1号なんです」
「それは分かっているけど…」
「わかっていません!
その基盤が完成しない事には、「プロジェクトアーク」が次のステージに移行できないんです!
ネート博士だって、困ってるんですよ。私達の請け負っている仕事が終わらないから…」
必死に説明するマリア。
しかしルクスは絶えずニコニコしておりあまり話は通じていなさそうだ。
そんな彼女に溜息をつく。
「プロジェクト・アーク…結構遅れてるんですよ…。」
そう言ったあと、もっと大きな溜息をつくマリア。
「…でも、このプロジェクトも続ける必要ないかもしれませんね。」
「え、そうなの?マリアちゃん?」
「先輩…、じゃない。博士。そのちゃん付けはやめてください。
ほら、総帥が異星人に対して徹底抗戦を掲げたじゃないですか。
あれのせいでこのプロジェクトは要らないって事になるかもしれないらしいんですよ」
「あらあら、どうして?」
「だから、この施設やプロジェクトって、『異星人に滅ぼされた時用の種の保存』が目的ですからね。
基本負けた時用の施設じゃないですか?徹底抗戦するって事は負けたら意味ないんです。」
「でも、そうなると…この施設はどうなっちゃうのかしら…?」
「ネート博士や、他の研究員の方々が今総帥達に抗議を繰り返してるらしいですよ
まだ完全に中止は決まってないらしいですけど、やっぱり勝てる保障なんてどこにもないですしね」
そんなやれやれと言った様子のマリアにルクスは少し寂しそうな表情をした。
それを見たマリアが慌てて
「ど、どうしたんですか。先輩!そんな顔して…!!」
「いえ…あのね。このプロジェクトなくなったらあの子、…ウルズはどうなるのかなって」
「…多分。管理、監視用ではなく戦闘用に作り替えられるんじゃないでしょうか…。
今は防衛用の戦闘情報しか、組み込んでないですけど色んな戦闘情報を教える事になると思います」
「…結局あの子は、数ヵ月後にはまたお人形さんに戻らないといけないのね…」
ルクスはとても寂しく儚げな表情をして、積み木で楽しそうに遊ぶウルズを見た。
マリアはそんなルクスを見て呟く。
「仕方ないです…。私たち地球人も生き残るのに必死なんです…
使えるものは全て使わなければこのご時世きっと生き残れない…」
「…育成カプセルの中に入ったら、実用できるレベルまで成長させるのよね…?」
「はい、イーグレット博士はそう仰っていました」
「…カプセルに入って…出てきた時は私達のこと覚えていてくれるのかしら」
「…恐らく監視、管理、防衛、戦闘に必要のない事は消去されると思います…」
そのマリアの言葉に、ルクスはそっと胸を押さえた。
「るくすー」
小さな男の子がルクスのもとへ走ってきた。
そんな声に気がつく、ルクス
「あら、あら、ウルズ。どうしたの?」
「みてみてー」
そう言って指差す先には、沢山積み上げた積み木があった。
「作ったのー。るくすの家だよー」
「まあ、素敵!よくできたわね」
そう言って頭を優しく撫でるルクス。
そんな彼女に、飛び切り明るい笑顔で、嬉しそうにする男の子。
それはどこからどう見ても、幸せな笑顔だった。
年相応の小さな子供の。
それから数日もたたないうちに、地球の状況は更なる戦火に飲まれていった。
その状況は深刻で、地球上の人間全てが同じ言葉を述べるだろう
軍人や各地の、勇気ある民間人が立ち上がった、宇宙から来る脅威に。
…しかし地球の脅威はそれだけでは終わらず地球の各地で反乱や、戦争がおこっていく。
そんな混乱の中謎の秘密結社や、謎の組織からの侵略
地球には今、絶望という黒い渦が漂っていた。
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