何度も何度も何度も何度も…
分かっていた。
分かっていた。
声なんてかけても、返事してくれないのは。
認めたくなかった。
何が起きたのか、考えたくもなかった。
それでも、一欠けらの希望に、光にすがる思いで必死に、彼女に呼びかけた。
名前を何度も何度も、呼んだ。
「ルクスっ!ルクスッッ!返事を…返事を…返事をして…!」
いつの間にか、瞳から雨が降っていた。
それはもう土砂降りだった。いや、土砂降りなんてものじゃないかもしれない。
梅雨の方が、正しいかな、ずっと永い間止まることはなかったから。
だんだん冷たくなっていくのが分かった。
だんだん、体が固まっていくのも分かった。
それでもウルズは、必死に彼女の体を抱きしめた。
自分の体温で温めるように−…
でも、それの意味はなかったかもしれない。
だって、彼の瞳から降る雨で、また彼女の体は冷えてしまうから。
暫くずっとそうしてたかな。
もうだいぶ彼女の体は冷たかった。
僕の涙も…涸れてしまった。
僕の心は空っぽだった。
憎悪、嫌悪、きっとそんな物もあっただろう
でも、こんな強い憎しみの炎は初めてで…
誰に何をぶつけたら良いのかわからなかったんだ。
そして、声がした。
部屋の奥からだった。
フェフと…ゼンガーの声だろうか…
今の僕にはよく聞き取れなかった。
空っぽだったから。
音がした、大きな音だった。
何の音だ…?
…銃声?
ウルズはその音のする方へふらふらと歩いていく。
そしてその光景を目に入れた。
そこも濁っていた。
赤い液体が、地面へ流れる。
その赤の液体を流す男の横でぐったりする女性。
銃を撃ったのはゼンガーだ。
死んだのは…フェフだ。
「…これは…?」
思わず声を出した。
ゼンガーはウルズに構わず、ソフィアに駆け寄る。
ぐったりしたソフィアは、何の反応もない。
彼女も、死んだのか…?
胸が痛んだ。
人は皆死ぬ、生き物は皆死ぬ。
当たり前のことなのに。
…でも、
…どこが痛いんだ?
ゼンガーが必死にソフィアに声をかける。
でも反応はない、ルクスと一緒だ。
けれど、少し違った。
僕と、ゼンガーが置かれることになった状況は。
次の瞬間、彼女は別の存在へと進化を遂げた。
「…我が名は…メイガス…」
そう、これが僕らアンセスターの誕生の瞬間だった。
フェフによって、マシンセルを投与されたソフィアは、メイガスと一体化し彼女の肉体は、メイガスの物となった。
そんなメイガスとなった彼女を見た僕は全てを諦めた。
もうこの揺り篭に、あの時のような『笑顔』は戻らない。
そしてゼンガーの横を通り抜ける。
フェフを殺してくれた事へなのか、それとも別の何かのことなのか
何か一言だけ、最後の人間へ言いたかっただけなのか、今になってはわからない。
「…ありがとう」
彼は小さくそう言った。
それはゼンガーに聞こえていたのか、わからない。
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