IV.Memoriola lux 


愛なんて要らない。
愛なんて、どんな形であっても邪魔なだけだ。

届かない愛
思われる愛
思う愛
失う愛

どれも邪魔なだけだ
だって人間は、愛があるだけ不安定になるじゃないか

生まれた事も恨む程に。
存在する事さえ恨む程に。

誰でも良い。
誰でも良いよ。

この感情を誰かにぶつけたい。



ウルズは、コールドスリープをする人間達の元へ来ていた。
マシンナリー・チルドレンがこれから全員戦いに赴く為、その間は管理する者が居なくなる。
最も戦いは激しくなる為、帰ってこれるチルドレンも居ないかもしれない。
だから人口冬眠者達の、体調や、設備を調整しに来たというわけだ。

ウルズが一人一人の装置の調整をする。
次の調整をしようと前に目を向けると、自分のカプセルの前である女性が立っていた。

「ルナ博士…いかがしました?」

そう無表情に声をかける、ウルズ
そんな彼に気づいたルクス。

「…私達が眠ってから何千年たったのかな…って」

「…数百年はたちました。もしかしたら千年ほど経っている可能性もあります」

「…随分いい加減…」

「とても長い時間でしたから」

そんな会話をして、ルクスは言った。

「ウルズは、この数千年で何か変わったのかな…覚えてるかな、冬眠する前のこと」

「…少しだけ」

「…君がまだ小さかった頃、実用化される前…とても笑ってた」

「…笑う?僕が…?」

「数千年前だから本当に昔話ね…。この数千年で君は何を思えるようになったのかしら…?」

「…わかりません…。しかし、とても永い、永い時間でした。
そんな永い時間の中で、地球が少しずつ再生していくのを見てとても喜ばしく思っていたのは確かです」

「喜ぶ…事、覚えていてくれたのかな」

「…笑顔はわかりませんが…。嬉しいという感情にはとても懐かしいものを感じています」

そんなウルズの言葉を聴いて、ルクスは自分のコールドカプセルを指差した。

「ウルズ、良ければその下のほうにあるものを取って貰えると嬉しいです」

ルクスがそう言うのを聞いてウルズは、彼女の指差す先にあるものを手に取った。
それはとても古く傷んだ紙だった。
でも大事に大事にとってあったのが分かる、そんな状態だ。

「…これは…?」

「それはね…あなたが描いたの。実用化前の…確か…5歳位の時かな」

その紙には、肌色と、赤、そして黒が使われていた。

「…それ私なんだって。『るくすのかおだよー』って教えてくれたのよ」

そう話すルクスはとても、優しく微笑んで。
そんな表情は彼の頭に強く響いた。

−ッッッ…!

ウルズが頭を抑え少しぐらついた。

ノイズだ

ぼんやりとだが、映像が頭の中に流れた。

何の映像だろう

赤?黄色?青?
とてもカラフルだ。

それに周りには

三角?
四角?
丸?

そんな物体を小さな男の子が、一つずつ上に積んでいる。

とてもぼやけてて、何をしてるかなんてわからないのに。
凄く懐かしくて、楽しくて。

「ウルズ!?どうしたの!?」

ルクスが心配そうに彼を見ている。
そんな表情でさえ、彼の頭脳にノイズを生む。

−ッッ!!

誰かが何かを喋ってる。
また聞き取れない。ぼやけてる。

会話…?
誰かが喋っている…?

女と…男…?

声だ…。
冷たい声と…
泣いているのか…?

誰が泣いているんだ…?


ノイズがようやく収まった時だった。
フェフからの通信だった。
ヒュッケバインの調整が終わり、出撃が出来るという報告だ。
その報告を聞き次第、ウルズはルクスに挨拶をしてその場を去ろうとする。

「…ウルズ戦いに行くんだよね…」

「はい…。アースクレイドルと…人類の為に」

その言葉を聞いた瞬間、ルクスの顔は濁った。
それはまるで曇り空で、今にも雨が降り出しそうな…そんな濁り方だ。

ウルズはそんな彼女の曇り空を見た瞬間に
ノイズよりも酷い物が胸を貫いた。

『彼女の涙は見たくない』

無意識にそう思った。
そしてとても懐かしい感覚に襲われた。

ウルズは彼女に雨が降らぬようにこう紡ぐ。

「…必ず勝って、戻ります。心配なさらないでください」

彼はそう言って、戦場へ向かった。


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