000年、00月、00分、00秒
彼は、マシンナリー・チルドレンのオリジネイターとして。

生まれ変わった



数ヶ月後…。
とある協力組織と、自分達が生き残ることしか考えていない者達のおかげで
アースクレイドルは完成し、冬眠希望者は集い大地の揺り篭は地底へ静かに落ちていった。

「…ルクスさん。本当に良かったのですか?」

人口睡眠用のカプセルに入ろうとするルクスへ後ろから声が響いた。

「ネート博士…
はい、これで良いんです。」

とても、申し訳なさそうなソフィアにルクスは笑顔を向けた。

「ネート博士が気になさることはありません。
あの子は、最初からこうなる為に生まれてきたんです。それを私が…」

−そう、私が少し私情を入れすぎてしまっただけ。

そんな会話の中、後ろから声が響いた。

「ネート博士、ルナ博士。準備の方は?」

その場に響く、感情のない声。
それはまるで機械のよう

その声の主に顔を合わせないよう、話をするルクス。

「…もう少しで準備ができます」

「了解致しました。では準備が出来次第お呼びください」

そう言ってコンピュータールームへ戻っていく彼に。
ルクスの表情は重かった。
そんな彼女にソフィアは言う

「ルクスさん…。大丈夫ですか?」

「はい…。大丈夫です、ネート博士」

ルクスは胸を押さえた。
彼を見るたびに思い出す、数ヶ月前の記憶

無邪気で、優しく、眩しく、キラキラした笑顔だった。

失われた感情、失われた心
今の彼は、人間の、創造主の命令を忠実にこなす人形だった。


「…ウルズ」

ルクスはそう呟くと

「ネート博士…。ごめんなさい。失礼します…!」

ソフィアにそう言ってコンピュータールームへ走っていった。
そんなルクスの後姿をソフィアは見ていた。


コンピュータールームにつくと、一人の少年が
コールドスリープの為の準備に取り掛かっていた。

ルクスにそんな少年が気が付いたようだ。

「ルナ博士、いかがしました?何が不備でも生じましたか?」

機械的にそう言う少年に、ルクスは言う

「ウルズ…」

「はい」

機械的な返事だ。

「…私のこと覚えてる?」

「…質問の意味がわかりません。」

「何か…昔の事とか…覚えてない…?」

とても寂しそうな表情でそう言うルクスに、彼は眉一つ動かさない。
そして即答する。

「…質問の意味がわかりません。もっと的確にお願いします」

「数ヶ月前の…
調整を受けて実用化される前の事覚えてない…?」

「…本格起動前のメモリーは、必要な事以外は全て抹消されました。
ルナ博士のデータは、人口冬眠希望者及びアースクレイドルの研究員として記録されています」

そう無表情で言う彼に、ルクスは寂しげに言った。

「そ、そう…。そう、よね…ごめんなさい」

ルクスの言葉の意味はウルズには分からなかった。
泣いていることも、悲しんでいることも。

彼は尋ねた。

「…何故そのような表情をするのですか?」

「…寂しいから」

ルクスは、もう一言ごめんなさいと言うと自分の冬眠カプセルに戻っていった。
そんな姿を黙って見送るウルズの後ろから2人の影。

「あの女誰だい?」

「知らない。本格起動前の僕を知っているって言っていたけれど」

「ウルズの本格起動前って確かあれだろ?
アースクレイドルのデータ収集の為一時期起動してたっていう」

彼と顔や声は同じだが、色が違う2人の少年。
ウルズはそんな2人を見つつ言う

「ああ…。僕にはもうその記憶は殆ど残っていないけれどね…」

「まあでも良いんじゃないかい?
人間なんてどうせ、汚くて低脳だしねぇ!」

「そうさ。
人間なんて結局自分のことしか考えてない。
自分以外は、NPCだと思ってるんだろ?」

「…」

そんな2人の言葉をウルズは黙って聴いていた。

何故だろう
僕らはまだ生まれて間もないはずなのに、どうしてこんな風に人間を思うんだろう。

本格起動前の事は何も覚えていないのに…
何故人間にここまで憎悪と嫌悪を抱いてるんだ…僕は…?

分からない…。
データを参照しても、メモリーを探っても、計算しても、解析しても
その答えは導き出されない…

何故…?

僕に欠けている…消去された本格起動前のメモリー… そこに真実があるのだろうか…?


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