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*

「コルテスっコルテス!!!こるてす!!!」
「イド落ち着いて!今医者がみんな見てくれてるから!」
「嫌だ離せ!!コルテス!!コルテスっ!!!」
「イド、お願いだから!きっと大丈夫だからっ!」
「いやだ、いやだコルテスっ!!ッいやだぁあ!!!」

病院の、手術室の前で。イドルフリートが、我を無くして泣き叫ぶ。

あの時、偶然通りかかった王子とメルヒェンが、呆然としてしまって受け答えができないイドルフリートに付き添って救急車に乗ってくれた。
そのまま病院まで運ばれ、コルテスはすぐさま手術室に運ばれた。廊下に響いた扉の固く閉まる音で、イドルフリートもようやく、ここがどこだか理解する。理解、した途端。
今までに見たこともないくらいに泣き叫び暴れ始めたイドルフリートは、本当に手が付けられなくなり。
私のせいだ、私のせいでコルテスが。そう言ってコルテスの名を叫び続けるイドルフリートを、二人は鎮めることができないでいた。

「コルテス!!!コルテス返事をしてくれ!!コルテス!!!」
「イドお願い、静かにして!コルテスならきっと大丈夫だから!」
「だって!!だってコルテスが!!!」
「イド!!」
「・・・っうああ、あああああああああっ!!」

抱きとめていたメルヒェンに縋り付き、そのまま泣き崩れてしまう。あふれる涙をぬぐおうともせずに、ただひたすらコルテス、コルテスと叫び続けるイドルフリートのところに、やがて看護士までやってきた。

「だ、大丈夫ですか!?」
「す、すいません、彼が・・・」
「コルテス・・っこるてす!!!」

疲れて立てなくなって、声も枯れて。それでもまだ泣き喚くイドルフリートを見て状況を察したのか、看護士が鎮静剤を持ってきた。
けれど、それを打ってもイドルフリートは静まらなくて。

「大丈夫ですから、落ち着いてください!」
「落ち着いてなんていられるか!!だったらコルテスを助けろ!!!」
「イド!!今頑張ってくれてるから、大丈夫だから!!」
「やだ、死んじゃ嫌だ・・っいやだ!コルテス!っ会わせろ!!お願いだから!!」
「イド、大丈夫だから!」

嫌だ、コルテスに会いたい、それだけを言い続け、手術室の扉まで行こうとして、王子たちに羽交い絞めにされる。止められて暴れて、また叫ぶ。
そんなことをずっとずっと繰り返し。
そのまま、数時間が経過し。

三人とも疲れ果てて、ぐったりしたころ。


手術室のランプが消えた。

「―――!!!」

真っ先に反応したイドルフリートが、ドアが開くや否や中に入ろうとする。
それを慌てて押しとどめられたところで、麻酔から醒めないままのコルテスが出てきたのを見て、二人を振り切ってストレッチャーに飛びつく。

「コルテス、コルテス!!」
「落ち着いてください、一応手術は成功です」
「じゃあ、コルテスは・・!!」
「説明を、させてください」

ぱぁっと希望と共に振り向いたのに。成功と、言ったはずなのに暗い顔のままの医師を見て、イドルフリートの瞳からまた、ぼろりと涙がこぼれた。

*

簡単に言うと、コルテスは、予断を許さない状況だった。

「全身の打撲に加え、頭部の損傷が特に激しいんです。おそらく、仮に治ったとしても、何かしらの障害が残るでしょう」
「か、り・・・?」
「ええ」

王子とメルヒェンに支えられて、医師の説明を聞く。"仮に”の意味が分からなくて。聞き返したイドルフリートは、とてもとても残酷な告知をされた。

「目覚めるかどうか、正直わかりません」

ぴしりと固まったイドルフリートに、医師が無表情に続ける。

「先ほども言いましたが、頭部の損傷が激しい。今現在息をしていることも不思議なくらいです。最悪このまま・・・」
「っどういう、ことだ!!」

がたんと立ち上がり、止めるより早くイドルフリートが医師の襟首をつかみあげ。真っ青な顔のまま問い詰める。

「成功したんじゃなかったのか!!?」
「ですから、脳以外の部分は、恐らく治療できました。最善はつくしましたが、正直、ここからどうなるかはわかりません。あとは、患者の体力次第です」
「そんな・・・っ!!たすけて、くれるんじゃ、無いのか・・っ!?」
「できることは全てやります、ですが、正直難しいと・・・
「助けて、くれ・・っお願い、だから!!!」

ずるずると。床にくずおれながら、イドルフリートが懇願する。お願いだから、助けてくれ。彼を、助けてくれ。

「イド・・・」
「お願いだから・・っできることなら、なんでもするから・・・お金だって、どうにか、するから・・・っ!!」

あまりにも悲痛な声に、医師も王子たちも言葉を無くす。
とにかく、彼のところへ行きましょう、と。

ぽたぽたと床を濡らすイドルフリートを連れて、三人はコルテスの病室へ向かった。

*

ベッドに横たわるコルテスは、ひどく真っ白な顔をしていて。体中につながれたチューブとまかれた包帯が、とても痛々しかった。
言葉を失ってしまったイドルフリートをコルテスの枕元に座らせると、彼はコルテスの手を取り、そのまま動かなくなった。

「イド・・・今日はもう、帰ろう?」
「・・・」
「イド。大丈夫、ここにはお医者様も、看護士さんもいるから。何かあっても、安心だから」
「・・・」
「イド!」
「嫌だ」

やけにきっぱりと拒否されて、王子とメルヒェンがたじろぐ。イドルフリートは、相変わらずコルテスだけを見つめたまま、口だけを動かす。

「私はずっとここにいる。コルテスの傍にいる」
「そんなこと言っても、イド・・・もう、夜も遅い」
「知らない」
「知らないって・・・それに学校もあるし、ご飯とか、食べなきゃ。何も食べてないだろ?」
「いらない。腹なんてすいていない」
「イド・・・っ」
「お願いだから」

コルテスの傍に、いさせてくれ。表情は見えないけれど、あまりにも辛く、重く発されたその言葉に、王子たちも口を閉じざるをえなくて。

その日は、看護士の許可を取り、イドルフリートは病院に泊まった。

*

その後どうなったかというと。

イドルフリートは、ずっとそこから動こうとしなかった。
医師の診察の時は大人しく医師にその席を譲る。ただしコルテスの傍からは離れようとしない。診察が終わればすぐに元の場所に戻りコルテスの手を取り、ずっとその態勢のまま動かない。思い詰めた表情のまま、ひたすらコルテスが起きることを祈るのだ。
食事もとろうとしないんです、そう看護士に言われ、王子とメルヒェンが食べ物を持ってくるけれど、まったく口をつけてくれない。

「イド、お願い。何か食べて」
「いらない」
「イド・・・このままじゃ君まで倒れちゃうよ。ひどい顔色してる。お願いだから」
「いい。私は大丈夫だから」
「大丈夫じゃないから言っているんだよ!君、寝てもいないんだろう!?」
「大丈夫」

毎日まいにち、この繰り返し。食べ物だけはむりやり口の中に詰め込むけれど、自分からは決して摂ろうとしない。寝ようとなんて、もちろんしない。
ずっとずっと、ただひたすらコルテスの看病をするだけ。

そんなことが続いたある日。
王子の堪忍袋の緒が切れた。

相変わらずコルテスの手を握って動こうとしないイドルフリートを無理やりに自分の方に向かせ、驚いているその顔を、力いっぱい殴り飛ばした。
吹っ飛んだイドルフリートを見て、王子が怒鳴る。

「いい加減にしろイド!!」
「・・・っ!?」

目を白黒させながら、イドルフリートが王子を見ると。ぼろぼろと泣きながら怒る王子がそこにはいて。

「お、おう・・じ?」
「君は、このまま死にたいの!?コルテスが起きる前に、死にたいの!?」
「え・・・」
「このままこんなことを続けていたら、君は死んでしまうだろう!?頭のいい君が、そんなことも分からないのか!そんなことをしていて、コルテスが喜ぶのかい!?」
「・・・っ!!」

コルテス、という単語を聴いて顔をゆがめたイドルフリートを立たせ、王子がその手を取って言う。

「彼が目覚めた時、君が支えるんだろう・・っ?君がそんなで、それができるのかい?君がしっかりして、彼を支えてあげなきゃいけないんじゃ、ないのか?」
「あ・・・」

優しく強く言い聞かされ、ぽろりと涙がこぼれる。
私が、しっかり、しなければ。ぽそりとつぶやかれた言葉をきいた王子が、イドルフリートを優しく抱きしめる。

「こんなにやつれてたら、きっとコルテスは悲しむよ。まずは体を元に戻すところから、始めよう?イド」
「・・・っ!!」

ありがとう、そういって。

イドルフリートの瞳に、ちいさな光が戻った。

*

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