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 「大好きだから」



*

別れよう。

イドが言ったその言葉は。コルテスにはうまく飲み込めなくて。
放課後の屋上。何かを告白するにはうってつけの場所。愛の告白のために使うのがもっとも一般的なそこで告げられた言葉は、その場での一般的からも、コルテスの予想からも、大きくおおきく外れていて。

“放課後、屋上で、待ってる。”

呼び出された二時間目終了後以降、コルテスが授業にかけらも集中しなかったのなんて、言うまでもない。
ただ、不思議ではあった。

愛の告白なら、自分がとうの昔にしている。しかも、自分から。 真っ赤になって殴り倒されて、あとからメールで侘びと共にものすごい長い長い前置きの後、了解、という一言が入っていたのを確かに覚えているし、メールも保存してあるから確かだ。

だったら一体、どんな用事だろう。

なにをそんなわざわざ。呼び出してまで、告げることがあるんだろう。そう思っていた。

振られる、それを考えなかった自分の頭が能天気すぎるのだろうか。でも、本当にうまく、うまくいっていたはずだ。
いつだって一緒に帰って。周りの目も気にせず笑顔で駆けてゆけば、イドはいつだって、真っ赤になって不機嫌になって。でもそれは全てイドの愛情表現。

だったら? だったらどうして。

「・・・理由を、聞いても、いいか?」

声の震えを全力でおさえ、コルテスが尋ねる。 俯いて、こちらを全く見ようとしないイドの肩が、驚くくらいはねる。

「俺、なにか、しちゃったかな。イドのこと、何か、傷つけた
「違うっ!!」

分からなくて、質問したら全力で遮られた。 はじかれたように顔を上げたイドの目からは、驚くくらい涙があふれていて。
いつも全然泣かなくて、何があってもさらりとかわして、どんな時でも自分の弱さは見せないイドの目から、すごくたくさん、あふれていて。

「い・・・イド?」
「違う、違うんだコルテス、私は」
「・・・嫌いに、なった?」
「だから違うんだ!」

嫌ってなんていない。また俯いたイドの喉から絞り出されるように出た言葉に、ひとまず安心する。でも、だったらなおさら。

「だったら・・・なんで、別れるんだ?」

怖がらせないように、優しくやさしく。 怒ってないと伝わるように、そっとそっと。
問いかけると、イドは、ぽつりぽつりと。

「・・いすき・・・だから」
「へ?」
「大好き・・・だから」

いつでも、一緒にいたいから。いつでも、話していたいから。

「わ、私はっ。す、すごく、コルテスを、あい、してるけど! でも、」

ぼろぼろと。こぼれる言葉は、一緒に流れる涙と嗚咽のせいで、少し聞き取りづらい。それでも一生懸命聞けば、見えてくる理由。

「きっ、きっと。このまま一緒にいても、わ、私はすごく、重い奴に、なってしまう、から。
> コルテスがいなかったら、きっと死んでしまうから。へ、へんな奴、だから。
でも、ど、どうしたらいいかっ分からないし・・・っ!」
「・・・だから、別れたい・・・っていうのか?」

コルテスを好きだ、そういう自分の態度が、あまりにも度が過ぎているように思えて。
いつかそれが、コルテスにとって重荷になるんじゃないかって、そう思えて。
それで嫌われたとき、自分はきっとそれに耐えられないから。絶対にコルテスに迷惑をかけるから。

「だから・・・っ、だから、き、きらいになって、ほしかったんだ・・っ!」
「おまえなぁ・・・」
「だって!!」

いつものイドからは考えられない言葉と態度。涙でぐしゃぐしゃになった頬にそっと手をあてると、またさらに泣き出す。
そして口を開いたコルテスの動きを遮るように、イドのとどめの一言。

「ずっと、君をすきで、い、いたいんだっ!!」

ああ、こいつは。気づいているんだろうか。
言おうとした言葉は引っ込めて、先に思いっきり抱きしめる。 腕の中で暴れる気配がしたけれど、お構いなしに、抱きしめる。
そして、耳元で伝えてやる。なにも分かっていない、この低能な、可愛い恋人に。

「おまえ、俺も同じくらい大好きだって、分からねぇ?」
「え・・・」
「え、じゃねえよ。俺だって、おまえがいなくなったら絶対後追うし、お前が離れたいって言っても恐らく離してやらねぇし」
「・・・」
「俺だって、同じなんだよ。おまえと同じくらい、重い奴なんだよ」

だからこそ、こうやって丁度良くやってたんじゃねーか。そう言って笑ってやると、イドがまだ反論してくる。

「わたしは、君が、ほかのやつと・・友達と話しているのだって、ほんとは、い、いやなんだぞ・・・っ?」
「それこそおあいこだな。俺だってできることなら俺の方だけ向かせて、ずーっと俺だけ見せときたいよ」
「・・・」
「よし、別れたかった理由はそんだけだな?」

かすかに頷く気配がしたので、体を離す。そして、肩を持って、目線の高さを合わせて。

「いいか、イド。俺だって、お前が大好きだし、自分がすごく変な奴だって思うくらい、重いなって思ってる」
「・・・」
「でも、それは別れたい理由にはならねーよ。そんなの、自分勝手だ」
「・・・っ」
「ずっとずっと、このままでいいじゃねぇか。重たいくらいべたべたしてさ。周りに見せつけてさ。いちいち小さなことでやきもち焼いて」
「・・・」
「それで、いいじゃねえか」

どっちもどっちなんだから、片方が引け目に感じることなんてない。そもそも、その状態で別れたら、お互い確実に死んでしまうじゃないか。
それを言うと、ようやくイドは納得した。

「もう、別れようなんて言わないな?」
「・・・言わない」
「よし」

改めて抱きしめると、今度は若干身じろぎしただけで、おずおずと。イドも、背中に手をまわしてくれた。

ああ、よかった。嫌われたわけじゃないんだな。
突然なにを言い出すのかと思ったら、結局は「大好きすぎて怖いから別れよう」、なんて。
思いのほかいじましい所を見せられて、こちらも思わず固まってしまったではないか。

おまえ、意外とすげー考えが回らないところあるよな。
そんなことを言うと、思いっきり蹴られたのだけれど。

もう、離れていくことはしなかったので、よしとする。



*
「いいか、もう絶対別れるなんて言うなよ」
「言わないと何度言ったらわかるんだ」
「あんなとんちんかんで可愛いこと言われたら心配にぐぉっ!!?」
「まだいうならまだやるぞ」
「すみませんでしたどうかその腕しまってくださいお前まじこえぇよ!!!」

お幸せに。

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