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*

「イ、イド」
「ふふ。あのカミサマとやら。随分、優しい性格をしているな」
「・・・っ!」

今の言葉で理解できた気がした。たぶん、イドルフリートも夢を見たのだ。告げられた内容はおそらく、コルテスと同じもの。
コルテスが言葉を発するより早く、イドルフリートがきっぱりといった。

「私を殺したまえ」
「――!!」

あまりにも強く断言されてコルテスが言葉に詰まったのをいいことに、イドルフリートがそのまま畳み掛ける。

「私は、私のせいでこの世界が滅ぶなど、ごめんだ。そんなことになるくらいなら、自分で幕引きをさせてもらう」

でも。

「君には一か月も世話になったからな。封印を解いてしまったのも私だし、どうやら、私がいなければ、君はあのカミサマにこんなことを言われずに済んだんだ。すまなかったな」
「・・・だから、殺せって、言うのかよ」
「ああ」
「ふざ・・・っけんなよ!!」

何を当たり前のことを。そういったイドルフリートの襟首をつかんで思い切り引き寄せる。苦しそうに歪んだ顔にぐいっと自分の顔を近づけて、睨みつけたまま言う。

「なんで、俺が、貴様を、殺さなきゃいけねーんだよ」
「・・・っそう、しないと・・全て、終わりだからだろ・・っ低能!」
「うるせぇ!!」

怒りながらふと思い出したのは、カミサマの言葉。
『貴方。彼のことが、好きなんでしょう?』

あれは、こういうことなんだろうか。イドルフリートに自分を殺せと言われて、本気で怒る自分がいる。本気で嫌がる自分がいる。殺したくないと、思う自分がいる。

そう考えるコルテスの腕を引きはがし、イドルフリートがせき込みながら怒りかえす。

「なぜここで躊躇うんだ君は!私なんて、ただ君を縛るだけの存在だぞ!?私を生かして、この世界が滅んでも、いいのか君は!?」
「いいよ別に」

自分でも意外なほどにぽろりと口から出た言葉に、そろって驚く。
いいよって。別にって。世界に対してこの言いぐさ。けれど、これがコルテスの今の本音。目の前でぽかんと呆けた顔を晒しているこの人間を殺してまで守られる世界なんて、きっとどうでもいいものだ。
と。そのときふと、思いついた案があった。 イドルフリートにとっても、世界にとっても、とってもとっても、いい案。

「イド」

呼びかけにはっと顔を上げたイドルフリートに。

「俺が封印されてた図書館の本、覚えてるか?」
「え・・あ、ああ。それが何か・・・」
「あの本。俺の命と繋がってて、ついでに言うと俺の上司の・・・サタンの、一部なんだ」
「だから、それが何か」

「あれを、壊してくれ」

再度あほ面になってしまったイドに内心吹き出しながら、まぁ真面目な話なので。しっかりと伝える。

「夜、暗くなったら二人で図書館へ行く。道は覚えてるな?ついたら、まず俺が契約を解く。とかねーとお前も死ぬからな。その後、お前があの本を壊してくれ。そうすれば俺は死ぬ。どうせサタンの野郎、俺を殺すことしか頭にねぇんだから、たぶん俺が死ねば満足するはずだ」
「な・・・・なに、言って」
「おまえにも話しかけてきたあのやろーが、言ってたんだけどさ」

ちょこっと照れくさそうに。自分の中で、意外なほどにすとんと心に収まってしまったそのことを。いっそすがすがしく言う。

「俺、お前が好きみたいなんだよな」
「え」
「確かに話しててすげぇ面白かったし、お前をいじめるたびに見れたあの反応、すっごく楽しかった。お前と一緒にいるの・・・なんて言うんだっけ」

幸せ?だった。

「殺したくないんだ、イドのこと。だから、全ての元凶の、俺が死ぬ。そうすりゃ万事解決だ」

固まってしまったイドルフリートの瞳から一滴。ぽろりと流れた涙をみて、驚いた。
なんでこいつが泣くんだろう。 その雫を真白な指で拭うと、イドルフリートは。分かった。小さくだけれど、確かに、そう言った。

「夜。図書館へ、行こう。君の、言うとおりにする」


その夜。月明りの中を、二人分の影が、森の中の、古びた怪しげな図書館に向かって、歩いて行った。
奇しくもそれは、二人が初めてであった日と同じ、満月の夜。

*

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