テキスト | ナノ
 


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*

「コルテス、悪いがそこにある資料を持ってきてくれ」
「あぁ?」
「あーあと、あちらにある本の束をそこの本棚にきれいに並べておいてくれ」
「おいてめぇ人使い荒いぞ!」
「君は悪魔だろう」
「そうだけど!!」

あれから。コルテスは、イドルフリートと契約を交わし、現世にとどまっているわけだけれど。

「しっかり働いておくれよコルテス。君、力が強いから助かるんだ」
「貴様ほんとに俺をなんだと思ってるんだ!!?」
「今となっては私のいい雑用係だな」
「おまえ早く死ね」

名前と共に告げられた、契約内容。契約を交わすにあたっては、契約主からの条件を飲むのが悪魔側の掟なので。コルテスも、しきたりにのっとって尋ねたわけだけれど。

『私の命令には必ず従うこと』

よりにもよってこの契約主、一番面倒な内容言いつけてきやがった。コルテスが全力で舌打ちしたくらいには、この内容は最悪。
こんなことをいわれては、何があっても逆らうことはできないし、もし万が一命を投げ出すような命令をされても、それを全うしなければいけないのだ。
ただし、魂をいただくという約束は守られるから、悪魔が死ぬときは契約主もともに死ぬのだけれど。
だけど。

この契約主の最悪なところは、そんな深いところにはなかった。もっと簡単な話。
人(悪魔)使いが、荒すぎるのだ。あれやこれや、自分でできるだろうということまで言いつけてくるし、かと思ったらまぁ人間には無理であろうお使いを頼んで来たり。
ちょっと悪魔を舐めすぎていると思う。あげく。

「コルテス・・・君のこの羽や尻尾は、いったいどうなっているんだい?」
「ぅやっ!!?」

いきなりつんつんと羽をつつかれ、コルテスの体が盛大に跳ねる。付き合い始めて十日足らずだけれど、見たこともないような反応にイドルフリートのテンションが上がる。
羽に手をかけ、尻尾をするりと撫でつつ。

「・・・?コルテス、君まさか」
「あ、ちょっやめ、撫でんな貴様・・・っぁ」
「あは・・!!そうか君、こことかなでると感じるんだな!!」
「ゃ・・っちょ、やめろ貴様ほんとにやめろ殺すぞ!?」

調子に乗ってのしかかってきたイドルフリートに、ぴきりときたコルテスが咄嗟に何かを小さくつぶやく。そのまま。

「お返しだ・・っ!!」
「あっ!!?」

ぐるりと方向転換してイドルフリートに向き直ったコルテスが、半ば叩くようにイドルフリートの胸を掴む。と。
どくん、心臓の跳ねる音とともに、締め付けられるようなあの苦しさがイドルフリートを襲った。胸を掻き握りながらコルテスを見ると、にやにやとした笑顔が間近にあって。

「逆らったらどうなるか、忘れてた訳じゃあねーよな、人間?」
「…っ、ーー!!?」
「あぁ、声?当然押さえさせてもらったぜ。命令されたらアウトだからな」

意地悪く、あの最初のときのように、妙な技を使ったというわけだ。わかってはいても、苦しさで力が入らないイドルフリートに抵抗する術はなく。
胸を押さえたままへたりこんでしまったイドルフリートを見下ろすうち、コルテスにふと考えが浮かんだ。それは大変良い案に思えて。

「イド」
「っーー、!?」

見上げてきたイドルフリートの唇に、コルテスが勢いよく噛みつく。八重歯のせいで傷がついたところをぺろりと舐め、息もつかせぬままにその舌をイドルフリートの口内に差し込む。

「っ、…ん、ふ…んンっ!」
「ぷは。イド、おまえいい味してんな」
「ーーーっ!!」

涙が溜まり、力の抜けた瞳でそれでも睨んでくるイドルフリートの腕をとり、そのまま押し倒す。驚きになんの抵抗もできないイドルフリートの胸を軽くなで、心臓にかけた術だけ解く。

「っ!」
「口でいっても分からねーみたいだし、ここはひとつ、体で分かってもらおうと思ってさ」
「ッーーー!!!?!」

言うや否や、首筋にがぷりと噛みついてきたコルテスに対し、鋭い痛覚と僅かな快楽に襲われたイドルフリートが声にならない悲鳴をあげる。それを気にせずに傷を舌で刺激し、強く吸い付いて痕を残す。つつ、と耳たぶを舐めつつ、ぎぎぎっと爪でうなじをなぞると、イドルフリートの体が面白いくらいに跳ねた。

「っー、ッーー!!!」
「ははっ!まじでいい反応してくれるじゃねーか!!」

ぼろぼろと溢れるイドルフリートの涙を舐めとり、そのまま眼球をぺろりと舐めあげたら、がくがくと震えながら思い切り頭を振って拒絶された。
そのようすを見ていたら、ムカついていた筈の目の前の人間が無性に可愛くなり、口付けを送りつつするりと傷ついた喉を撫でた。

「っけほ、ゃ、は…ぅあッ!!」
「おーやっぱ声もかわいいな」
「んぁ…ッな、やめ…むぐっ!!」

「それ禁止」

咄嗟に制止のことぱを吐き出しかけたイドルフリートの口を塞ぐ。しぃいっと、口に指を当てて囁くように。

「それ、言うの禁止な」
「はぁ!?ふざけ…っあ!!?…っんン!」
「はっ、やっぱかわいいなおまえ!おまえが主で良かったぜ!!」

至極嬉しそうに言いながら、コルテスは弄るのをやめない。だんだんエスカレートするその行為に歯止めをかけようと、イドルフリートが震える手をのばし。

「うあっ!!?」

放置されてふよふよとしていた尻尾を撫で上げると、驚いたコルテスの手が止まる。その隙を逃さずに。

「やっ、やめろコルテス!このド低能!!!」
「げ、しまっ…」
「どこか行けとりあえずそこから退け頭を冷やせこのド低能!!!」

かくかくと震えたまま、イドルフリートがコルテスを蹴って抜け出す。命令で動けなくなったコルテスの頭頂に鉄拳をおとし、イドルフリートが部屋に逃げ込んだ。


「あーんのやろぉ…いつか絶対犯す…」

呟きは届かなかったけれど。
その後ちょっぴり、コルテスの扱いは優しくなったとか。

*

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