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「い・・・い、ど」
銃声に加え、発電エリアの爆発で誘発が起きた影響か、先ほどまで自分たちがいたところが真っ赤な炎に包まれる。
その炎を呆然と見つめ、イド、いど、と。何度もつぶやく。
結局誰も、救えなかったじゃないか。殺した方がましだといった子達だって、最後がこんな死に方じゃ。
「ち・・・・・くしょっ・・!!!」
そのとき。ポケットに入っていたままだった通信機が、ガガっと音を立てて仲間と繋がる。
『コルテスか』
「あ!?」
『煙が上がっているみたいだが・・・破壊は、成功したのか』
「ああ、ああ成功したよ成功しましたよ!全部燃えたよ壊れたよ!!」
『・・・落ち着け。では、あとは残さず情報を持って、速やかに帰還せよ。との、お達しだ』
「・・・っ!!」
ぶつり。用件だけ伝えて切れた通信機を、悔しさと苛立ちに任せて地面にたたきつける。頑丈故に壊れないのがまたイラつく。
「じょうほう・・・」
振り返って状況を確認するが、恐らく何も残っていないだろう、この状況では。
こんな、煌々と、燦々と、燃え上がる研究所では。全て燃えてしまっている。
情報も、可哀そうな被験体たちも、 も。
「ち・・・くしょ・・・・っなんで・・・なんで、どうしてあいつが死ななきゃ、ならないんだよ・・・・っ!!」
ぼろりと、涙が零れ落ちた時。
「だ、れ、が。死ななきゃならないって?」
首がちぎれるんじゃないかという勢いで振り向く。 居たのは。
こんなひどい環境の中でどうやってそこまで手入れをしているんだと不思議になるような、美しい金髪。
整った顔と、力も光もないくせにそれでも美しい翡翠色の瞳。今はそれらが煤と焦げで、若干損なわれてはいるけれど。
持ち主の。
「い・・・イ、ド・・・?」
「おい、なんだその間抜けにもほどがある顔は」
「い、生きて・・・」
「助けてくれると、言ったのは君だろう」
私は、助けてもらえるとは思ったが死なせてもらえるとは聞かなかったのでね。
「死んだらだめだろうなぁと思ってな。まぁどうせ、この身も他の者同様ぼろぼろだから、いつまで持つか分からないが・・・!?」
イドが最後まで言葉を紡ぐ前に、コルテスが強くつよく抱きしめる。そのまま、耐えきれずに泣き出す。
「よかった・・・よかった、よかったよかったよかった!!」
「うっ・・・るさいな、そう何度も言わなくても分かる!」
「うるせえ言いたいんだよ黙っとけ!よかったくらい言わせろあんな心臓に悪い演出しやがって!」
「演出とかいうななんだ其れは!ああする以外に手はなかっただろう!」
「俺に任せればよかっただろ!?」
「あそこにあれだけ武器が転がっていたのにそれに気づかない君にどう任せろと!?」
「うるせぇ俺は俺で手を考えてあったんだっつの!!!」
いつの間にか痴話喧嘩。はたと気づいて顔を見合わせ、同時に吹き出す。
「まったく・・・この状況で笑うなんて、君はどうかしているな」
「おまえもな」
「否定はしないがな」
そのまま研究所を振り返る。ちょうど、最後の骨組みが煤となって崩れ落ちるところだった。
「あーぁ、今まで私が居たところが、こうも跡形無く崩れていく様を見るのは、なんだか不思議な気分だよ」
「いやだったか?」
「嫌だと、言うとでも思ったか?」
「思わねぇけど」
イドが、遠い目でつぶやく。
「全部、無くなってしまったんだな、本当に。彼らも、彼らと過ごした場所も、時間もすべて」
「・・・」
「けれどまぁ・・・あのまま実験を続けていても、実るものなどありはしなかっただろうし。私のようなものが、これ以上増えないというなら、よかったのかもしれない」
くるりと燃え滓たちに背を向け、イドが歩き出す。
コルテスが隣を歩きながら訪ねる。
「おまえ、これからどうするわけ?」
「どうしような」
「どうしようなって・・・」
「君が私のことを助けて生かしておいたんだ」
どうにかしたまえよ。そう目で言ってきたイドに、コルテスも笑って答える。
「安心しろ、俺が、これからもばっちり生かしといてやるよ」
まずはボスに挨拶だな。おまえ、俺から離れたらたぶんみんなに殺されるから離れるなよ。なんて。
イドを震え上がらせて笑いながら、二人はその場を離れた。
*
その後、研究の担当者が全て死んだため、この場所で行われていた研究・実験は全て停止、永久に再開されることはなかった。
たった一人になった生き残りは、ぼろぼろの体を引きずって、それでも一生懸命、その命が終わる瞬間まで、助けてくれた彼のそばで、笑い続けたそうな。
happy end
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