テキスト | ナノ
 


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*

完全に破壊され、あちこちから火の手の上がる発電エリアとその周辺を遠くから見ながら、イドが放心したまま言う。

「き、きみも・・・大分無茶をするな・・・」
「あ?普通だろこんなの」

とりあえず。行動を起こした以上、あとはここを跡形なく破壊して、引き上げるだけだ。と、その前に。
コルテスは、放心しているイドをぺしぺしと叩いて正気に戻し、尋ねる。

「なあ、他にもたくさんいる、被験体やらされてるあの子供たちはどこだ?」
「・・・何故」
「助けにいかねぇとだろ」

火の回りが予想以上に早い。はやく抜け出さなかったら、コルテスもイドも此処で死んでしまう。

けれどコルテスは、イドに慰められていたあの子供たちが忘れられなかった。あんな小さな子供たちを、このまま殺すのは可哀そうすぎる。
が。

「やめておけ」

イドが、今までに聞いたこともないような冷たい声でコルテスの問いをはねのける。驚いて振り返ったコルテスに、イドは真剣な声で言う。

「彼らを助けるつもりなら、やめてやれ。このまま、死なせてやってくれ」
「なんでだよ!?あいつらだって、こんなところに閉じ込められて、今までずっと実験体にされてきたんだろ!?だったら

「だからだ低能!!」

イドが怒鳴り声をあげる。初めて聞くその声にコルテスが怯んだ隙に、イドは畳み掛ける。

「分からないか。彼らは今までずっと、実験動物として生きてきたんだ。外の生き方なんて何も知らない。感情すら知らないようなものもたくさんいる。親も兄弟も親戚もいない奴がどれだけいることか。ましてや皆、度重なる実験で体はボロボロなんだ」

息を吸って、強く、重く。

「そんな子たちが、世に放り出されてみろ。どうなるか、分からない君ではないだろう・・・っ!」
「・・・っ」
「ここで死なせてやることが、君にできる、唯一の、救いだ」
「・・・でも・・・!!」

最後まで言えず。
咄嗟にイドを突き飛ばし、銃弾が飛んできた方を見ると。先ほどの爆発や火事から逃げのびた研究員が、そろってこちらに銃を向けていた。
見たところ無傷の者はいないようで、どうやら死なばもろとも、という訳らしい。

「しつっけぇな・・・!!」
「コルテス」
「なんだよ!!」

「行け」

空気が凍りつく。なんでもないようにさらりと言ったイドは、近くにあったビンを数個もって、銃を持った研究員の方に近づいていく。
イドの異様な雰囲気のせいで研究員たちが怯んでいる隙に、イドがもう一度鋭く言う。

「行け、コルテス」
「い・・・行けじゃねぇよ何考えてんだおまえ!!!」
「君は所詮首を突っ込んできただけの赤の他人。私はここで、生まれてからずっと体をいじられて来たんだ。最後の始末位、私につけさせてくれ」

当たり前のように言うイドに、コルテスがキレる。

「そんなこと聞いてねえよ!!おまえ何勝手に死のうとしてんだよ!俺が許さねえぞそんなの!!」
「・・・はぁ。低能だな、まったく」

イドが、持っていたビンの一つをコルテスの近くの地面にたたきつける。中に何が入っていたんだか、突然変な色の煙が立ち上る。

「うわ・・っ」
「吸い込むなよ。毒だから」
「だったら投げつけるなよ!?てかお前本気で何を」

煙でイドが見えなくなる瞬間、イドがくるりと振り返り。
初めて、ここに来てから、自分に対して初めて見せる、笑顔で。

「ありがとう、コルテス。感謝しているよ」

煙にイドが隠れ、毒のせいでその場を離れざるを得なくなり、遠ざかった直後。遠くでいくつもの銃声が鳴り響いた。

*

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