テキスト | ナノ
 


 3



*

その日の夜。研究所中が寝静まった頃、コルテスは闇にまぎれて研究所内を動き回っていた。目的はもちろん、情報を集めるための捜索と研究所を潰す為の事前調査。
調べれば調べるほどに此処がどんなに最低な場所なのかがわかってきて、できるだけはやく潰してやりたかった。
それに。

イドや、他の被験体たち。彼らを、なんとかして解放してやりたい。こんなところに、いつまでも閉じ込めておきたくない。

そう想いながら偶然イドの部屋を通り過ぎた時。

「―――!!!」

イドの部屋から話声が聴こえ、咄嗟に息をひそめて耳をそばだてる。
けれど。 それを即座に後悔する。いや、後悔というか。怒りと、わけのわからなさが、ぐちゃまぜになってコルテスを襲う。
中から聞こえてきた、ほんのわずかな、イドの、喘ぎ声によって。

(何・・・やってんだあいつ・・!?)

性欲など、一番無縁そうな顔をしているじゃないか。
確かにイドは、とても素晴らしい見た目をしている。こんなひどい環境の中でどうやってそこまで手入れをしているんだと不思議になるような、美しい金髪。
整った顔と、力も光もないくせにそれでも美しい翡翠色の瞳。確かに、彼を見たものなら、誰でも惚れるだろう。
でも、イドはそんなことにはまったく興味がなさそうだったのに。

(・・・!)

飛び出していくわけにもいかない。そんなことをすれば、即座に此処を追い出されるか、最悪消される。そうなれば任務の遂行は叶わなくなる。
コルテスは、わけのわからない感情を無理やりに抑え込んで、その場を離れた。

*

「・・・おまえ、昨日の夜、何してた?」
「なんだ突然」
「いいから」

やっぱり気になって。次の日、いつものように食事を運び、それの観察をしている最中に、コルテスは思い切ってイドに尋ねてみた。
どんな答えが返ってくるのか予想もつかないけれど、それでも知りたい。そう思ったのに、返答は驚くほど拍子抜けするものだった。

「実験だが」
「・・・・・・・・・。・・・はあ?」
「何を驚いているんだ、自分から聞いておいて」

きょとんと首をかしげるイドを、信じられない思いで見る。こいつ今、実験とか言わなかったか。昨日、研究員2人がかりで犯されてたこいつが。

「・・・いやえっと。イド、別に隠したいなら隠したいで構わねーけど、もうちょっと真実味のある答え返した方が、よくねぇか・・・?」
「・・・コルテス、君、一体何を言っているんだ?」
「いやだから!昨日のアレを、実験とか言うお前の気がしれねぇって言ってるんだよ!」
「見てたのか」
「あ」

驚いたように目を見開くイドを見て、しまったと思う。こっそり動き回っていたことが知れたら、自分の立場はこれ以上なく危うくなる。
あわてて言い訳をしようとしたコルテスを何でもない様に見て、まあいいけどな、とイドはため息をついた。

「正直私も、あの実験に何の意味があるのかは分からないが・・・奴ら、半年ほど前から夜中になると人の部屋に押しかけてきて、実験だといってあのような行為を繰り返すんだ」
「は、はんとし」
「来るとしても一週間に一度くらいの割合だから、まぁ別に体の方に支障はないが・・・記録も何もつけていないあの実験に、いったい何の意味があるのだろう。コルテス、知っているか?」
「いや・・・意味というか・・・」

無いだろ。ないだろそれ確実に。お前完璧あいつらの玩具にされてるよ。
思いっきりそう突っ込んでやりたかったが、純粋なイドにそんな汚いことを教えたくはないという気もあって、口が閉まる。
がっくりと脱力したコルテスを不思議そうに見ながら、イドが思い出したように言う。

「ああそうだ。私はそろそろ実験があるから、行かせてもらうよ」
「実験?そういやなんか言ってたな」
「なんでもまた新しいことをするそうだ。まったく、気が滅入るな」
「・・・大丈夫か?」

まったく気が滅入っているように見えないイドに、思わず尋ねる。大丈夫なわけ、無いのに。
案の定、イドは何のことだ、と、まったくわかってない風に聞き返してきた。気が滅入る、そんな感情も、何も知らないのであろうイドに、コルテスは辛さを隠して言う。

「いや、なんでもない。いってらっしゃい、イド」


・・・イドが行ったのを確認して、コルテスは研究所の裏に出る。そのまま、此処に来た時からずっと隠し持っていた通信機を取りだし。

「もしもし、聞こえますか」

「此処のこと、わかりました。もう、情報もほとんどとってあります。後は一番重要な情報を持ち出して、此処を破壊するだけになりました」

その後二、三言会話をして、電源を切った後に研究所を見上げたコルテスの目は。
何も映ってない、冷たく暗い目だった。

*

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