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*

結論から言って、この研究所は確実につぶす必要があることが分かった。
此処でやっているのは、人体実験どころの話じゃない。 人体改造だった。

あの後研究員に用紙を提出しつつ問い詰めたら、返ってきた返事は「なんだそんなことで騒いで」。
此処では新薬の投与なんて序の口。内臓に関して何か見つければ、『モルモット』のどれかの内臓を使って実験。改造。
骨、筋肉、なんでもかんでも、とにかく研究し、わずかでもわかったことがあれば即座に実験に移す。そのために収容されている被験体が、ここにはおよそ500人ほどいるらしい。

潜入してから数日のうちにそのことを理解し、本格的に任務遂行の算段を立てる。
立てつつ。

*

「なぁ・・・おまえ、その腕だの目だの、あと足も。どうしたんだ?」

潜入から10日ほどした日のこと。最初のあの煙たがられ様こそあったものの、その後徐々にこの場所に慣れてきたコルテスに対し、ようやくまともな口をきくようになってくれた『110番』に、改めて聞いてみる。
包帯がぐるぐるの腕と、ぎこちない動きをする、出来物の足。そして、きらきらと光ってはいるものの、動くたびにすぐに転んだりふらついたりすることから見えていないのが丸わかりの左目。
指をさしつつ、何となく答えが予想できる問いを、あえてしてみる。

「・・・君だっていい加減予想つくだろう」
「いやまぁ、そうだけど・・・一応」
「・・・はあ」

此処に来てから何度目かの新薬投与で相変わらずぐったりしたままの『110番』が、気だるげに口を開く。

「腕は、何年か前に、補強剤を投与されてそれが失敗してこんな風になった。足は義足の試作品。目は・・・」
「目は?」
「・・・うるさい」
「はぁ!?」

親切に答えてくれるんだと思えば、突然ぷつりと言葉をきって背を向けられる。意味が分からないと文句を言おうとしたとき。

「おい、コルテス居るか。No.72の実験、手伝ってくれ」
「あ、あぁ・・・」

素晴らしく悪いタイミングで呼びに来た研究員に引きずられて、部屋の外に出される。部屋の中の『110番』は、相変わらずこっちを見ないままだった。

*

あるとき、『110番』の珍しい面を見た。
他の被験体を、慰めている姿だ。ここには『110番』と同じくらい、またそれより小さい子たちもたくさんいて、毎日の人体実験で辛い思いをする小さな子供たちを、『110番』は優しく撫でているのだ。

「辛かったな、もう大丈夫だ」
「うえぇ・・・っいどぉ・・!」「よしよし、ほら、他の子も呼んでおいで。みんなでいれば、辛いのなんてすぐに忘れる」

泣いている子たちを慰めるときの彼は、ひどく優しい顔をする。まるで、親のように。
慈愛に満ちたその表情が忘れられなくて、部屋に戻ってから『110番』に先ほどのことを尋ねる。

「私はここの中ではかなり長くいる方だからな。110番といったって適当につけられた番号だし。私は生まれて間もない時からここにいるから、ここの中じゃかなりの古株なんだ」
「へえ・・・てかさ、イドって、どういうことだ?」
「ああ、聞いていたのか。110、1と10の呼び名をもじって、「い」「ど」だ。番号じゃ呼びづらいと、子供たちが考えてくれたのさ」
「おま・・っ呼び名あるなら教えろっつったよな!?」
「なぜ君なんかに呼び名を教えなければいけない。だいたいここの研究員の名など、私は君くらいしか知らないぞ。自己紹介なんて、されたのは初めてだ」
「えっなんで。人って普通挨拶するだろ」

ぴしりとイドの顔が凍りついた。普通にコルテスの言葉を聞いていた言葉が、「人って」、その言葉を聞いた瞬間、目だけ見開いたまま瞬間冷凍される。
不思議に思いながらイドの顔の前で手をぶんぶんと振りつつ。太陽の光ではなくレーザー光の浴びすぎで色の悪い真っ白な頬をぎゅむむとひっぱりつつ。

「おーい、おーいイドーおーい」
「・・・・・・・きみ、今なんていった」
「は?」
「人、とか、聞きなれない言葉が聴こえた。気のせいだって言ってくれ、幻聴が聴こえるとか言ったら耳までなにされるか分からない」
「・・・いや、俺、確かに人って言ったけど」
「・・・」

なんてことを心配してるんだとコルテスがバカにしようとしたとき。
くるっと。

イドが突然背を向けた。向ける瞬間、コルテスを部屋の外に思いっきり突き飛ばして。

がちゃんっと目の前でしまったドアを両手で叩きながら、コルテスが驚いたように中にいるイドに問いかける。

「お、おいイド!?ちょっとまて俺なんで追い出されてんだ!?」
「煩いうるさいあっち行け君なんて戻ってくるな!!!」
「はぁあ!!?」
「いいからもう行けそろそろ違う実験に駆り出される頃だろう!?」
「いみわかんねぇ!!!」
「わたしだってわからんよ低能め!!」

と。

「何をしているんだ君たちは」

今度はまぁ・・・タイミング良く、だろうか。またしても研究員が呼びに来た。どうやら先ほどからのやりとりを聞いていたようで、呆れかえった顔をしている。

「モルモットと喧嘩なんぞして、君は何を考えているんだ・・・」
「もるもっ・・俺は別にそんな」
「いいから行くぞ」

部屋の前からはがされる。そのままずるずると奥の実験室まで連れて行かれる。
連れて行かれる途中。

「何処で覚えたんだろうな」
「はい?」
「110番の、あの罵り文句さ。低能、なんて・・・ああ、皆使うか。にしても」
「・・・なんです?」
「アレが、あんなに研究員に対して感情むき出しで喧嘩をするなんて、初めて見たぞ。君は一体どんな魔法を使ったんだ」
「は・・?いや、あいついつもあんな感じじゃないですか?」
「・・・報告が必要だな」
「え?はい?」

何やらぶつぶつと考え込み始めた研究員に引きずられながら、コルテスもなんだったんださっきのあいつは、そう思い返していた。

*

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