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 「夢のはなし」



*

「私は、もうすぐ殺されるんだ」
「・・・・・は?」

見上げれば、影すらも消そうとばかりに輝く太陽、見下ろせば、光を受けてみたものすべてを呑み込もうとばかりに輝く海。
そんな景色のなかを進む船の上で発される言葉には程遠いであろうイドのそれに、コルテスは咄嗟に返事ができない。

「おい、ものすごくあほ面をしているが。大丈夫かいコルテス?」
「大丈夫だと、おもうかよ。てか」
「嘘じゃないよ」

先を越す様に笑いながら追い打ちをかけてくる。 もうすぐ殺される?よくもそんな冗談を。
笑顔が。冗談だよ、表面ではそういっているのに、目はとてもまじめで悲しげで、それでいてもう諦めたようなその笑顔がむかついて。
気付いたら胸倉をつかみあげていた。

「二度とそんな冗談を言うなイド。いくらお前でも言っていいことと悪いことがある」
「冗談ではないと、何度言ったら君は分かってくれるのかな?低能将軍」
「だから!!」

まだいうか、本気で切れる音がして、腕を振り上げたら船員たちが集まってきて、イドとコルテスの間に入って。コルテスをつかんで止めてきた。

「何してるんですかあなたたち!」
「やめてくださいよちょっと!」
「うるせぇよ離せてめぇら!!」
「大丈夫だ、いつもの軽い痴話げんかだよ。君達は仕事に行きたまえ」
「あぁ!?」
「え、でもイドさん・・・」

離したらすぐにでも殴りかかりそうなコルテスを残して仕事に行けなんて。目で訴える船員たちに、イドはさらりと笑って言う。

「私たちが、最終的に元通りにならなかったことはないだろう?大丈夫だから」

敵意もなし、喧嘩腰でもなしなその態度を見てやっと、みんなが少しずつ離れ始め、コルテスも腕を収める。
ただ、顔付だけは逆にさらに険しくなった。 見据えられたイドは、相変わらず。

「・・・どういうことだよ」
「何がだい?」
「とぼけんな。お前がそこまで言うなら冗談じゃないってことだろ。殺されるだなんて物騒なこと、どうして言うんだ」
「ああ・・・」

瞬間、イドが困ったような迷ったような顔をつくる。 どう言おうか。
こういう時に話しかけても逆に話さなくなるだけだと、経験で慣れてるコルテスは黙って待つ。
数十秒の後。

「何を聞いても、大きな声をあげるなよ」
「・・・そんなに驚く内容なのかよ」
「他の者に聴かれたくないだけさ」

そういってまた、どう伝えよう、そう思考の海に沈んだイドを見て、コルテスも自分を振り返る。

なんで自分はあんなに切れた。イドの軽口なんていつものことじゃないか。いつもそうだから、いつも聞き流して。
ふざけが過ぎるときは確かに切れるけれど、今回は速すぎた。 なぜ。

答えが出かかった時、イドが顔を上げた。

「夢をな。見るんだ」
「・・・夢?なんの」
「殺される夢だよ。私が、殺される夢」
「・・・・・夢だろ」
「夢だよ?あれはきっと、正夢だ。いや・・・未来のことだから、予知夢かな?」

そんなものを信じたことは生憎、ないのだけれどね。格好つけるようにわざとらしくため息をつきながら、イドが残念そうな笑顔をつくる。
井戸に落ちる夢だよ。

「どこか遠くの、知らない森でね。私はボロボロになりながら走っていて、古びた教会の前までくるんだ」
「・・・教会?」
「その前に、古井戸があってね。その中に落ちるんだよ、私が」

イドによると、自分は誰かに追いかけられていて、逃げて逃げてそこまで来て、最後は逃げきれなくなってその古井戸に落ちるんだとか。
そんなのただの夢だろう。ほっとしたコルテスに、イドがとても悲しそうに言う。

「・・・追いかけてくるのは、君だよ」
「は?」
「君に追いかけられて、井戸に落ちるんだ。夢はいつも、君に手を伸ばしたところで終わる」
「・・・」
「嫌な予感がするんだ」

この船は近日中に次の国に着く。その国は広く、森も当然あるだろう。村がその近くにあるなら、当然自分たちはそこへも行く。
それならもしかして、イドの言う正夢とは。いやまさか、そんな非科学的な。

頭でそう冷静に考えていたはずなのに、コルテスが気づいたときには、船縁に寄りかかっていたはずのイドはいなくて、代わりに盛大な水柱が立った。

「ちょ!なにやってんですか将軍!!?」
「イドさあああああああああん!!!!?」

驚いた船員たちが船縁に集まってくるけれど、一番驚いているのは自分だ。イドじゃなく。

「こ・・・っコルテス貴様!突然何をする!?死ぬところじゃ
「よかったなイド!これで正夢になったぞ!」
「「はぁあ!!?」」

見事にイドと船員たちの声が重なる中、コルテスだけが得意げに、ただし相当な怒りの表情のまま、海を泳ぐイドに声をかける。

「森の中でもねーし、おまえが落ちたのは海だから、古井戸じゃねーけど!!正夢になったからもう安心だろ!安心して上がってこいこの大馬鹿野郎!」
「きっさま・・・・聴いていればなんださっきから!」
「なんだはこっちだ低能!」

似合わないことを言うな。いきなり殺されるだの言うな。俺が殺すとか言うな。
全部込めて、思いっきり叫ぶ。

「俺がお前を殺すと思うか!!?そんなことになったら、自分を殺すぞ俺は!」

呆然としたままのイドとその他の者を押しのけて、自室へ戻る。


ぱたん。

扉を閉めた途端足から力が抜けて、コルテスは床に座り込んだ。

はは。口から乾いた笑いが出るけれど。 無意識に動いた手をぼうっと見つめる。

あれはたぶん、ただの自己規制。イドの話を聞いて本気で怖くなった自分が、何か言う前に、何かする前に起こしたただの防衛本能。
そして、イドの話を聞く前、いきなり自分が切れたことと、よぎった嫌な予感。

多分、イドの夢は、こんな風に終わりにしていいような軽い夢じゃないのだろう。
それが、コルテスにも直感で分かった。いきなり切れたのも本気になったのも、それが本当にやばいと感じたから。
   だから怖くて。あんなことをしたのだ。

「・・・一番の低能は、俺だな」

イドに向けて叫んだ言葉は全部本当だ。 ただ、語るイドの目が本気すぎて、話す内容が心の奥底にまで沁みわたってきて。
それで自分の感じた予感も大きくされたのだろう。
これほど次の国へ着きたくないと、思った瞬間はなかった。


その日の夢は、国に着いて。森を抜けてきた自分が、自分を殺す夢だった。

*
「イド・・・こないだはすまない」
「まったくだ。いきなり何をするんだ低能が」
「・・・理由」
「は?そんなものを、聞くとでも?」
「・・・あったかも、しれない」
「・・・・・君が、自分を殺さないで済むような事態になるよう、お祈りでもするかい?」
「目が笑ってないぞイド」
「君もだぞコルテス」



*

言い訳タイム

たまたまですね。支部でですね。「俺は、もうすぐ殺される」とかいう一文をふっと見かけてな(なぜかは忘れた)
ギャーーーーなにそのセリフ萌えた とか思うままにメモ帳立ち上げたらこんなことになったりました∵
イドさんが井戸におちるっていう仮説について、色々考察があるじゃないですか。
ふっとね、それがもし船のみんなの仕業だったら・・・とか思って∵ 考察じゃないですよただの思いつき。
んで、わーって打ち始めたらあとはまぁ脳内が大暴走して結果こんな意味わからんことになったからフィーリングでよんでください・・・
一応コルテスは、イドさんがコルテスが私を殺すんだだのなんだの言うから海に落としてやったんだけど、でもそのことを否定できないような、なんていうかほんとに起こりそう・・・とかって予感しちゃって怖くなっちゃったーーーみたいなお話です。
分かりづらい話ですみません・・・ただの妄想の産物です!

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