十五
 

 捕らえられた男の話を聞くと、朝霧のことを愛してしまったが身請け金がどうしても払えなく、一緒に死んでほしいと頼んだのだが、その願いは断られ、でも諦めきれず殺してしまった。とのことであった。
 それを表情一つ変えないで黙って聞いていた夕霧は涙ぐむ男の頬を力一杯叩く。バシリと乾いた音が部屋一杯に響いた。
 もちろん夕霧の顔に表情はない。

「どこのどいつかは知らないけどねェ、遊女や男娼が囁くのは所詮戯れ言なのさ。それがわからなかったお前はもう二度とこの東頭に来るな」

 その場に居た誰もがゾクリとするような声色で夕霧は言った。その後、彼は男から視線を外し青白い顔で横たわる朝霧のもとへと近づいてしゃがむ。

「朝霧さん兄さん、今までありがとうございました。さようなら、どうか安らかに」

 そう呟き一つ口付けを落とす。朝霧と初めて交わした口付けはとても冷たく、鉄の味がするものだった。
 その後、夕霧は部屋に居た者に見向きなどせず、自分の客が待つ座敷へと戻って行く。途中霧里に出会ったが、軽く挨拶を交わしただけであった。

 朝霧が居なくなっても夕霧は普段とあまり変わらない生活を送っていた。ただ、頭を撫でてくれる優しい手がなくなっただけ、よく話す人が居なくなっただけ。そう心の中で処理していた。
 入るぞ、と声が聞こえ、ハッとする。下を見れば今まで書いていた客への手紙に、ポタリと涙のように墨が垂れていた。



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