十四
 

 それはいつも優しく頭を撫でてくれる朝霧の爪に塗ってある紅と同じ物で、嘉月は不思議そうに赤くなった爪を見つめる。

「お守り。側には居れないからさ。俺が居なくてもちゃんと嘉月ができるようにね」

 初めてで心配だろうから、と朝霧が気を使ってくれたのだろう。嘉月はそれが嬉しくて自分の爪を少しの間眺めていた。

「俺を一番贔屓してくれている客さ。優しい人だからきっと大丈夫だ。ほら番頭が呼んでるよ。行ってきな、夕霧」

 朝霧はそう言うと、普段通り頭を撫でる。嘉月、いや夕霧は、行ってきますと微笑み、部屋を後にした。夕霧となった彼の笑顔は、妖艶で客をどこか惹きつける魅力がある。

 水揚げから三年が経った。十六歳になった夕霧の売り上げはうなぎ登りで、霧里を追い越しここの見世で一番の人気者となった。その夕霧の兄である朝霧はとても誇らしい。
 今日もそれは変わりなく、夕霧は座敷に顔を出しては、別の者を寄越して消え、を繰り返している。
 そんな中、朝霧が居る座敷で騒ぎが起きた。客は見世の中の雑務をこなす見世番に捕らえられている。その騒ぎに気づいた夕霧も世話になってる兄だから、と言って客を納得させ駆けつけた。
 布団に横たわる朝霧。その周りは赤く赤く染まっている。
 かわりに朝霧の顔は白い。



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