十三
 

「そうだね……。俺の“霧”って字を使って…………。あっ! “夕霧”なんてどうだい? 夕日に照らされたみたいに綺麗な赤っぽい髪をしているから、夕霧」

 そういいながら、朝霧は楼主が渡してくれた紙と筆でサラサラと名前を書いていく。
 自分の髪の色が嫌いだった嘉月は、朝霧に“綺麗な髪”と言われたことが嬉しい。そのため、嘉月はなんの否定もする事なく、自分の源氏名を夕霧にすると決めた。

 そして嘉月が十三になった年。ついに水揚げされる日が来た。そのせいか見世の中はやけに忙しない。

「今日から夕霧として生きていくことになるけど、両親が付けてくれた自分の名前は口に出してはいけないけれど決して忘れちゃいけないよ。大切に胸の奥に仕舞っておくんだ。そうして、つらいときに本当の名前を思えばいい。いいね?」

 朝霧は嘉月の髪を梳きながら言う。嘉月はその言葉に、はいと返事をし鏡越しに目の合った朝霧に向かって微笑んだ。
 その後は髪結いの人に綺麗に髪を結ってもらい、他は全て朝霧にしてもらう。赤と白の化粧も煌びやかな着物も、季節に合った簪も。
 きっと似合うよ、と朝霧が選んでくれた紅は彼の言った通り嘉月によく合っている。蝋燭の灯りで艶やかに光るその赤は、嘉月の妖艶さをさらに引き出していた。

「手、出してみな」

 そう言われ、素直に手をスッと差し出せば、爪にとても綺麗な紅を塗られる。



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