九
とても美味しいです。嘉月はそう素直に答える。
「ちいごは高価でめったに食べられないんだ。これは昨日、俺を贔屓してくれてる客に貰ってね。四つ入ってたからその場で二つだけ食べて、あとは嘉月と一緒に食べたくてとっておいたのさ」
優しく微笑む朝霧に、ここから逃げ出すと決めた嘉月は本当にとても申し訳ない気持ちになった。
そして皆が寝静まった頃。嘉月は店の外へと出た。少し前の賑やかさとは一変、シンと静まり返ったここはなんだか不気味だ。そう思いながら辺りを見渡し、赤くて大きな門を見つけそこへ向かおうとした時であった。
「一人逃げたぞォ!!!」
その声を聞いた嘉月は息も吐かせず走り出す。目指すは赤い大きな門。
嘉月はやっとの思いで門の側まで来た。その門は想像以上に大きい。あと少しで門を潜れる。そう思った時であった。門の横に立っていた男に手を掴まれ、強引に引っ張られる。直ぐに後ろ手に拘束され、自分のあとを追ってきたのであろうもう一人の男に突き出された。
男に引きずられて茶屋へと戻る道を行く。
逃げたい。嫌だ。逃げなくちゃ。そう思い男と反対側の方へ力を込めるが、大の大人に子供の力が適うはずがなかった。
茶屋の前に着き、嘉月は自分が寝起きしていた部屋ではなく、茶屋の裏にあった小さな小屋へと連れて行かれる。
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