どれだけの時間泣いていたのだろうか。ずっと何も言わずに泣いていた嘉月は、ひどい眠気に襲われていた。

「嘉月。眠いなら寝な? もう夜が近い。寝ていた方が、まだ、幸せさ。どうせ明日には知ってしまうんだ。今日はまだ、なにも知らないままで居てほしい……」

 そう遠くで朝霧が言う声が聞こえる。どうしてですか? と問おうとしたが、嘉月は深い深い眠りに落ちていった。

 朝、と言っても昼に近いのだが、目を覚ました嘉月は窓の外を眺めていた。似たような建物が規則正しく連なっている。時々顔を撫でていく風を心地よく感じていると、昨日来た朝霧と、見ず知らずの男が部屋へと入ってきた。朝霧は気怠そうにしており、隣に居る男にまだ寝たい、と溜め息混じりに言っている。
 そんな朝霧の言葉をサラリと受け流した男は、にこにこしながら今歳はいくつだい? と嘉月に話し掛けた。

「えっ、と……十二になった、ばかりです」

 そうかいそうかい、明日から稽古を始めるからね。頑張りな。そう言いながら男は部屋を後にする。その場に残された嘉月と朝霧。
 嘉月は口を開く。

「朝霧さん兄さん、あの方は……」
「ああ、さっきの男は楼主って言ってね。ここの見世の所有者さ。普通は番頭が仕切ってるから、あの人とは普段廊下ですれ違う程度だよ」



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