「やっと……、っ……、ないて、くれ……た…………、ね…………。ごめん……ね…………か、げ…、っ………」

 頬を撫でた母の手がパタリと落ちた。

「嘘だ!!! 嘘だろ!! 母さん!! 嫌だっ! 嫌だよ!! っ……、うああああああああああああああっ!!!」

 泣き叫ぶ嘉月の腹を、母を刺した男は思いっきり蹴る。ガハッ、と声を上げ、少年は意識を手放した。

 どれだけの時間が経ったのだろうか。目を覚ました嘉月は、起き上がり周りを見渡す。蹴られた腹がまだズキズキと痛い。

「どこだよ、ここ」

 綺麗な部屋。丸い格子窓は開いており、そこからそよそよと風が入って髪を揺らす。
 よく見れば自分の体は清められており、血など一切こびり付いてなどいなかった。
 失礼するよ、そう声が聞こえススッとふすまが開く。廊下には藍色の髪の男が居る。顔は綺麗に整っているのだが、何を考えているのかわからないその笑顔は背筋をゾクリとさせた。その男は部屋に入り襖を後ろ手に閉め、嘉月の側に座る。

「俺は朝霧さ。今日からお前の面倒をみることになったんだ。よろしくね」

 自己紹介をし、頭を当たり前のように撫でる男の手を振り払い、一言。

「触るなっ!」

 そうすれば朝霧はすぐにスッと顔から笑みの面を外して嘉月の頬をペシリと叩き、耳元へと自分の口を持っていって冷たく言い放つ。



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