三
母の看病を付きっきりでしていた嘉月は驚き、眠くて閉じそうになっていた目を開ける。大きな音に気付いた母も、目を覚まし上半身だけを持ち上げた。
「どちらさまでしょう……、っ!!」
扉を開けた人物を見た瞬間、母は血相を変え叫ぶ。
「嘉月! 逃げて! 逃げなさい!! 早く!!!」
悲鳴にも似たその声に、嘉月は本当に逃げなければ、と思った。だが、母を置いて逃げるわけにもいかない。
「母さんも! 母さんも一緒に逃げよう!」
母の手を引こうとして右手を伸ばした時であった。左手を勢いよく掴まれ、後ろへと引っ張られる。いきなりの事で体はよろめき、そのまま倒れ込む形となった。
「嘉月っ!!!」
「そう叫ばれましても困るんですよねェ。おお、上玉上玉」
そう言いながらジタバタと暴れる嘉月を後ろにいた二人の男に放り投げる。それを見た母は、病に冒されたその体を動かし、必死に嘉月へと手を伸ばした。嘉月もその母の病にやせ細った手を掴もうと自分の手を伸ばす。
手が触れ、嘉月が安心したのもつかの間。うっ……、と短い呻き声が聞こえ、生暖かい液体が顔や手に掛かる。
「母さん!! 母さんっ!!」
真っ赤な真っ赤な血が自分に掛かり、真っ青な顔をした母は崩れ落ちた。嘉月の上に倒れてきた母は、まだあたたかい。
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