二
「苦しいよ母さん」
そう言いながらも、嘉月はあたたかい母の背中に腕を回した。
それから一年経ち、嘉月は十一歳になる。父が残したお金もだんだんと底がつき、最近は貧しい生活が続いていた。母は仕方が無く借金をし、朝も昼も夜も休みなく働くようになっていた。
「嘉月、嘉月。本当にごめんなさいね。女の子みたいな着物だなんて、嫌よね……」
当然服を買う余裕などなく、母の服を嘉月の背丈に合わせ繕い、それを着ている日々。もちろん嘉月は嫌だったが、そんな事を言って母を困らせたくなどなかった。それなら周りにからかわれたり、恥ずかしい思いを我慢している方がよっぽどいい。
「大丈夫だってば母さん! 気にしないでよ。仕方がないんだから! ね?」
俺が笑っていれば母さんは少しでも楽になれる。嘉月は母を励ますように、つらくてもいつも笑っていた。
だが、母は逆にそれが悲しかった。つらい時はつらい。悲しい時は悲しい、もっともっと子供らしく感情を出して欲しかったのだ。
そしてまた一年の月日が流れ、嘉月が十二歳になった時であった。
母が父と同じ病に倒れてしまったのだ。嘉月の働きだけでは到底暮らしていけるわけがない。砂の山が簡単にできるように、借金がどんどん増えていく。
雪が降り積もる寒い寒い冬の夜。久し振りに雲から月が顔を出した日、家の扉がバンッ、と勢いよく音を立て開いた。
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