其ノ十六
「あれは女郎蜘蛛。人の血や肉、男の精を食らって力を蓄える妖怪だよ。霊力はどの妖怪も好んでる。妖怪の内側に入っちゃえば、霊力は邪悪なもの……、妖怪の力の源になるから……」
そこで雨露はふらふらしながらも立ち上がり、女郎蜘蛛の肉片を浄化しに掛かる。本体が破裂したことによって、女郎蜘蛛の糸はすでにこの場から消えていた。
ぼんやりと暖かい光を見つめながら雨露は続ける。
「女郎蜘蛛がいきなり破裂したのは僕の霊力を受け止めきれなくなったからだよ。力欲しさに自分の限界がわからなくなってたのかもね」
光から右腕に視線を移す。そこからは血がポタリポタリと垂れ、地面に鮮やかな赤い花を咲かせていた。
女郎蜘蛛の浄化を終えた雨露は貧血で真っ青な顔をしている。それでも自力で立とうとする彼に蓮は一度制止をかけ、自分の着物の袖をビリッと破く。その布を雨露の出血している腕に巻き付け縛った。
「ありがとう。着物、ごめんね……」
すまなそうに彼女の着物に目をやる。
「いいんです。着物より、怪我をしている人の方が大切ですから!」
そうやって蓮は微笑んだ。
「ほらほら! はやく帰りましょう? きっと私のおばが、美味しい夕餉を作っていますよ!」
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