其ノ十二
明らかに可笑しい雰囲気に三人は揃って足を止める。
雨露と翡翠は反射的に戦闘姿勢へと入った。
雨露は懐から出した札を、翡翠は鞘から引き抜いた妖刀を構える。
やがて木々の隙間から女が現れた。女の顔は青白く、足元は覚束ない。
「あの……、坊やは知りませんか? あたしの坊やがどこかへ行ってしまって……」
虚ろな目で女は問う。
「し、知りません」
答えたのは蓮だった。彼女は震えながらも言葉を紡ぐ。
「私達は……、見ておりません……よ? あ、あの?」
ひっくとしゃくりを上げながら泣き始めた女に近付こうとする蓮。それを雨露は左手で制してから女を見た。
「それ、どこで手に入れたの?」
時間が止まったかのように女の動きがピタリと止まる。
「どこで女の皮を手に入れたの、って……聞いてるんだけど? 自分では上手く隠せてるって思ってるみたいだけど、妖気がうっすら漏れてるよ」
彼がそう言った瞬間、女は不適で甲高い笑いを辺りに響かせながら、被っていた人間の皮を背中からビリビリと破って脱ぎ捨てた。
中から上半身は女、下半身は蜘蛛という、不気味な生物が出て来たのだ。蓮は小さな悲鳴を上げ、この場に居るのが嫌になって自分が立っていた所に頭を抱えて座り込む。
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