其ノ十一
神社へ着く頃には茜色だった空は、赤色と藍色が混ざり合い辺りに影を落としている。
そのせいなのか、古い神社の立派な鳥居が不気味に見えた。
鳥居は立派だが、境内はこじんまりとしている。社も小さく、苔むしていたり所々が崩れ落ちていた。
「昔はきちんと御狐様が居たのですが、今となってはわかりません。…………実は私、霊力がほんの少しばかりありまして、今日のようによく妖怪に追い回されるんです。恥ずかしいことに妖怪退治はできません……」
溜め息混じりに彼女は言った。
「そうやって追い回されているうちに、この神社を見つけたんです。不思議な事に、弱い妖怪はここに近付かないんですよ」
今度はふふっ、と控え目に笑いながら言う。
確かに力が薄れてきてはいるものの、結界が施されている。だが低級妖怪には一溜まりのない程の効果を与えるであろう。
三人は居るか居ないかわからない御狐様に手を合わせ、来た道を折り返す。
行きは蓮、翡翠、雨露の順であったが、帰りは雨露、蓮、翡翠と蓮を挟む形で並ぶ。
足元に注意をはかりながら話に花を咲かせていると、少し遠くから朗吟が聞こえてきた。
悲しみの気持ちが籠もった女の声。悲しみが読み取れる唄。それが様々な物に反響し、ザワザワと木が泣く音と共に三人の耳へと届く。
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